■2009年「若者の出発に贈る言葉」
朝日新聞
「怖い人」「嫌な時間」は自分にないものを与える
大学卒業後、俳優業を中心に活躍してきた石原良純さん。現在は俳優・気象予報士、コメンテーター、バラエティーと幅広く活動する。その礎はどう築かれたのか。
「自分に何が必要か、何をすべきかなんて若いうちはわからない。だから、無駄なことをしなさいと伝えたい。今の若者は損得勘定が働くから、理不尽なことを受け入れられないんだよね」
確かに「付き合いで飲みに行く」「必要のない勉強」などは自分にとっては心地良くない時間だ。しかし、そこで得た知識や人間関係が10年、20年たって役立つこともある。そのときは無駄だと思っても、それが自然と自分の引き出しを増やすことにつながるというのだ。
「家でゲームでもやっていたほうがいいと思うかもしれないけれど、自分の心地よさばかりを追うと何も得られない気がする。『時間を無駄にせず、無駄なことをする』。矛盾しているようだけど、これが大切だと思う」
また、新生活が始まれば出会も増える。石原さんは、「気が合う身近な友人」ばかりでなく、自分が怖いと思う「目上の人」と積極的に付き合うことも勧める。
「自分にないものをたくさん与えてくれるんだよね。僕には、渡哲也さんや舘ひろしさん、舞台でお世話になっているつかこうへいさんがいてくれた。たとえ怒鳴られたとしても、それは自分にエネルギーを向けてくれる証し、幸せだって思わなくちゃ。逃げたりしては絶対にダメ。そうした先輩の言葉や、行動はその後の人生に必ず生きてくるから」
大事なのはどう付き合い、どれだけ吸収できるか。頑固な教授や、気難しい取引先など、出会う機会はたくさんあるはずだ。
エネルギーを向ける先はどこであっても構わない
気象予報士になったのは、?お天気の森田さん?から「やってみたら」と一冊の教本を薦められたのがきっかけ。好奇心に従って行動するバイタリティーに満ちあふれている。
「要は手を出すか、出さないか。そもそも熱中できることなんて、いつ見つかるというものではありませんからね。もしかしたら一生見つからない人だっているかもしれない。だからこそ、エネルギーを向ける先はどこでも構わないんじゃないかな」
若いころは勉強したいなどとは思わなかったと語る石原さんだが、今は向上心の固まり。天気予報に携わっていくうちに、温暖化・食料・エネルギーといった環境問題にも興味をもち勉強し始めた。その動機は何かをかたちにしようというものではなく、とにかく「気になるから」だ。もともと凝り性で、中途半端では終われない。
勉強をしていくうちに本のすばらしさに気がついたとも語る。
「今更だけど本ってすごいですよ。著者の知識や経験をまとめた虎の巻なんだから。どうしてもやることがなければ、本を読むだけでもいいと思う。そこから何か見つかるかもしれないしね」
石原さんの考えや好奇心は、新生活を充実させる手本となる。どんなことでもいい、まずは手を出してやり抜くこと。無関心のまま敬遠していては、何も見えてこない。