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週刊新潮 七月五日号
「石原良純の楽屋の窓 」
206回
雨、雨、降れ降れ?

 梅雨前線は、数千キロの雲の帯。北太平洋アリューシャン列島から日本列島を横断し、朝鮮半島をかすめ、台湾、中国華南、ベトナム、カンボジアまで続いている。
 ということは、同じ雲の下に、日本人も韓国人も台湾人も中国人もベトナム人もカンボジア人も雨に濡れているわけだ。
 僕らは、同じ雨に濡れるアジアの一員と思えば”梅雨また楽し”。
 標高四千メートルにも達するモンゴル高原に夏半球の陽射しが強まると、空気の希薄な乾いた大地は熱せられ、気温が上昇し上昇気流が発生する。その上昇気流と大地の隙間めがけて、湿った空気がインド洋を北上する。はるばる赤道を渡って来る大気の流れは、陸地にぶつかると雲を湧き立たせ雨を降らす。これがアジアのモンスーン。
 アジア大陸の大地に稔りをもたらす雨雲は更に北上を続けるが、八千メートルを超えるヒマラヤ山脈に行く手を阻まれる。すると、雲の帯は地球の自転によって東へと延び、その先が日本の梅雨前線の雲となる。
 つまり、モンゴル高原やヒマラヤ山脈がなければ、日本に梅雨はやって来ないわけだ。梅雨空を眺め、遥かモンゴル高原やヒマラヤ山脈に思いをはせるのも楽しいものだ。
 ところが、梅雨を楽しむこんな話も、今年の梅雨には用がないようだ。十四日の梅雨入り以来一週間、なにしろ、東京には雨が降らなかったのだから。
 週末ゴルフの嬉しいはずの晴れマークに、お父さんはちょっぴり不安を感じてしまう。洗濯物を干しているお母さん、ギラギラ輝く御天道様は有難いが、どこか不安になってしまう。
 新聞やテレビでは、ラニーニャ現象が度々取り上げられ、夏の猛暑を誰もが予感する今日この頃。
「水不足は大丈夫なの」「このまま夏になってしまうの」と、今年ほど、雨を待ち望んだ梅雨は過去になかったろう。
 今月はやたらとロケが多い僕にとっても、確かに晴れの日続きは有難かった。   
 ひと度、雨が降り出せばロケ隊は大わらわだ。慌てて軒下に機材を隠し、演者はロケバスに走り込む。小降りになったところで撮影を再開しても、カメラレンズは曇るわ、ライトは余分にいるわ、衣裳は汚れるわ、スケジュールどおりに撮影は進行しない。
 僕がまだ新人刑事だった頃、埠頭で犯人と対峙する緊迫のシーンの撮影があった。刑事の僕と犯人のやり取りは、セリフ一行一行がそれぞれのアップショット。まず犯人側から収録が始まった。ところが、途中からあいにくの雨降り。それでも放送日を考えて撮影は止められない。犯行を告白する犯人の額に、話の途中から冷や汗ならぬ雨粒が光る。僕のアップを撮ってもらう頃には雨足が強まって、刑事の僕は濡れ鼠。どちらが犯人だか二人の画面はちっとも繋がらないのだが、撮影は最後まで強行された。
 今はそこまで乱暴なドラマの撮影は見かけない。特にコマーシャル撮影は、小雨でも撮影は中止。
 昨年に引き続きキャラクターを務めるNTT BJのコマーシャル”良純さんと行くタウンページの旅”は、僕がぶらりと街を歩き、突然、訪問したお宅の悩みをタウンページを使って解決するというショートストーリー。連日、見知らぬ街で野外撮影の僕らロケ隊も、季節はずれの晴天に助けられたわけだ。
 さて、気象庁の長期予報では六月末には梅雨空が戻ってくるという。二十一日に梅雨明けした沖縄も、梅雨入り当初こそ日照り続きだったが、最終的には降水量は平年並みに達した。
 原稿が本誌に掲載される頃には、東京に雨雲が戻って来ているかもしれない。
 梅雨は、日本の一年に欠かせない大切な季節の節目。梅雨を楽しみましょう。

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