週刊新潮 五月二十六日号
「石原良純の楽屋の窓」
102回
石橋も叩いて渡らなきゃ
「良純、なにグズグズしてるのや」
和田アキ子さんに怒鳴られたのは、『「ぷっ」すま』(テレビ朝日系・二十四日夜)収録前の楽屋。
「違うんです、違うんです。番組の内容がよく分からないから質問していたのです。だいいち、ディレクターがなかなか打ち合わせに来ないから……」なんて言い訳を、僕は決してしない。言い訳をすることの無意味さを芸能界の中堅どころにもなろうという僕は、さすがに理解しているから。
アッコさんと初めて仕事をご一緒したのは、八九年の『アッコのかる〜く見てみたい』だ。僕にとっては、初レギュラー出演のバラエティー番組。
それまで、シーンと静まりかえったモノトーンなセットで刑事ドラマしかやったことのない僕が、大勢の観覧者が居並ぶカラフルなセットに飛び込んだ、あのライトの眩しさは決して忘れられない。
番組冒頭の自己紹介の第一声、僕は「石原よし、よし純です」と自分の緊張を伝えようと、わざと噛んでみせた。その時の僕にしてみれば、精一杯のボケをかませたつもりなのだが、スタジオの空気が瞬く間に凍りつく。
「良純なりに、バラエティーを考えているんだ」と、アッコさんの助け舟に救われた。
レギュラーメンバーは、アッコさん、梅宮辰夫さん、羽賀研二さん、山瀬まみさん、田中義剛さん、森口博子さんと僕。義剛さんも博子ちゃんも、その後すぐバラエティーでブレイク。梅宮さんがテレビで料理の腕を披露するようになったのもこの番組からだ。
今、振り返ってみれば、いろいろな可能性を秘めた豪華キャストの番組だったというわけだ。
個性豊かなメンバーを束ねる、より個性的なアッコさんがこだわっていたのが時間厳守。どんなに段取りが複雑で準備が大変だろうと、リハーサルも収録も、きっちり決められた時間に始まっていた。
そんなアッコさんにしてみれば、カメラも廻っていない所でダラダラ打ち合わせを長びかせる僕が許せなかったのも頷ける。アッコさんの一言で、僕はディレクターとの話をサッと切り上げた。
さて、この日は番組の新企画“オークション・ビビり王決定戦”。MCの草薙剛さんとユースケサンタマリアさん。ゲストのアッコさんと僕の四人でオークションをして……。話が長いと叱られたばかりだから説明は割愛する。番組を観てもらえば一目瞭然、ともかくビビらずにオークションすればいいのだ。
ビビるということは、悪く言えば小心者。良く言えば慎重派ということか。石原家の人間は、この慎重派に当てはまるようだ。
僕は男ばかりの四人兄弟だが、公園のブランコから飛び降りて足を折った者もいなければ、ライダーキックで窓ガラスを蹴破った者もいない。
“わんぱくでもいい、逞しく育ってほしい”なんて昔懐かしいハム屋の宣伝文句ではあるまいし、慎重なことの何が悪い。
親からも先生からも、ブランコから飛び降りるな、仮面ライダーごっこでふざけるなと言われたはずだ。言いつけを守る子をバカにするものではない。
我が長男・良将クンにもこの慎重派の血は脈々と流れているようだ。縁側のフチまでは近づかず二歩手前から庭先を覗き込む。散歩に出かけた小さな段差を、何度も足を伸ばして高さを確認してから足を踏み出す。僕はそんな息子の仕草を、微笑ましく眺めている。
だが、ビビり王決定戦は勝負だ。大胆さを装い、繊細にビビりを隠す。そのためならば、アッコさんを怒鳴りつけることがあるかもしれない。
でも、ないかもしれない。
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