週刊新潮 十月五日号
「石原良純の楽屋の窓
」
169回
コロ コロ コロ コロ
バレーボールを転がして三メートル先のペットボトルを倒せたら賞金百万円。普通なら誰にでもできることに大金が懸かった時、果たして人は平常心を保てるのか。
五人一組のチームが、極くごく簡単なゲームに挑戦し、プレッシャーに打ち勝って賞金獲得を目指すのが『SAMURAI
5』(日本テレビ系十月四日放送)。
プレッシャーには強いと思われているのが芸能人。そんな名の知れた芸能人でも緊張してしまう場面が、僕の身近なところにある。
『笑っていいとも!』の・テレフォンショッキング・は、誰もが知っている、タモリさんとゲストのトークコーナーだ。
大抵のゲストは、新宿アルタの狭いスタジオに煌々と灯るライトと、膝を突き合わせた距離に並ぶ観覧者の熱気に圧倒される。お昼休みの見慣れたテレビの景色にすっぽりと自分がはまるのは、日頃テレビカメラに慣れた人間でもドキリとするものだ。
放送開始以来二十四年、六千回を数えるというのに、「このゲスト席には不思議な緊張感が未だに漂う」、とタモリさんも認めている。
極度の緊張といえば、『FNNスーパーニュース』のお天気コーナーに初登場した僕も、安藤優子さんの横でガチンコチンだった。前半のお天気に関する話題と、後半の天気予報部分、すべてを丸暗記して初回の放送に臨んだ。
だから、途中で安藤さんに質問されても、応用の利かない僕は、すべて無視。三分間を一気にしゃべって酸欠でブッ倒れそうになった。まるで、四百メートル走のようなものだ。
今も、もう少しゆっくり話して欲しいと視聴者からお叱りを受けることがある。少しでも皆さんに天気の楽しさ、おもしろさを知ってもらおうと、限られた時間の中で、ついつい口調は早くなる。だから相変わらず、安藤さんの質問を無視してしまう。ごめんなさい。
たしかに、生放送は慣れでプレッシャーを克服できる。だが、ウェザーキャスター五年を経た今でも緊張するのが、台風情報や大雨情報を伝える時だ。
もし僕が、原稿を読み間違えたり誤解を招く発言をしたら、人命にかかわる大事故にもつながりかねない。気象情報は人命、財産に直結する重要な情報。・天気予報を伝えることに慣れてはいけない・と決めている。
ドラマ撮影の初日の現場にも緊張感が漂う。誰がどんな芝居をするのか、どんなキャラクター創りをするのか、腹の探り合いだ。いきなりNG連発で、周りから見下されるわけにもいかない。
地方ロケの一発勝負の撮影もいやなものだ。きっちりとリハーサルして、あとは一時間に一本のローカル列車を待つばかり。僕が本番でNGを出せば、また一時間、列車を待たねばならなくなる。
芝居の初日は、幕が開き自分が舞台に立って一セリフ言い終えるまでが辛い時間だ。セリフと共に腹の底から淀んだ息を全部吐き出して、ようやく地に足が着いた心地がする。
ところが、後から出て来た役者が思いっきり緊張していると、その緊張感が舞台上にサッと広がり、再び緊張で足が震えてくるなんてこともある。
さて、いよいよ本番。ペットボトルをどうやって倒そうか。ドッジボールのように直接ぶつけてやるか。いやいや、慎重を期して両手で丁寧にボールを転がすべきか。
ボールに吹っ飛ぶペットボトル。ボールが掠めてフラつくように倒れるボトル。勢い余ってボトルの上を飛び越えてしまうボール。大きくボトルの脇をそれるボール。いろいろな情景が次々に脳裡を過る。
あれっ、これってもの凄くプレッシャーを感じているかも。
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