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週刊新潮 九月二十八日号
「石原良純の楽屋の窓 」
168回
トップ賞は…

石原天使は、現場百回の行動派天使。森公美子天使は、歌って踊るパフォーマー天使。中川翔子天使は、インターネットで情報収集するブログ天使。
 三人の天使が教えるヒントを上手く利用して、解答者は街の小さな不思議やナルホドに答えるのが『クイズおせっかいな天使』(二十三日夜放送)。クイズ番組隆盛の波が、NHKにも押し寄せた土曜夜の三十分プログラムだ。
 純粋に知識を競うもの、クイズの合間のトークを楽しむもの、知力と体力が合体したもの、クイズの名を借りた運試しもの。確かに僕も、近頃いろいろなクイズ番組に出ている。
「○○クイズどうします」というマネージャーの言葉に、僕は何も考えずに二つ返事で出演OKする。ところが、番組収録当日になってスタジオに入った途端、スーッと背中に一筋、汗をかいたりするものだ。
 もちろん僕は、ウチの親父のように「クイズが出来ないヤツは阿呆」なんて古い考えは持ち合わせてない。 
 今時のクイズ番組は、楽しむことが一番大切なのだ。それでも、あまりにも常識はずれな姿を人様の目に晒したくないのが人情というものだ。
 クイズの中でも特に困るのが、お天気に関する問題が出た時。番組は僕にサービスしているのか、それとも僕に恥をかかせるつもりなのか、答えは一目瞭然でも、万が一にも間違ってはウェザーキャスターの沽券に関わると、いらぬ力が入ってしまう。
 それでも、のこのこクイズ番組へ出かけるのは、非日常の小さな緊張感を楽しむため。そして、出る皆さんは、人より余計に目立とうという、競い合いが嫌いではないのだ。
 そこに賞品の一つでも懸かろうものなら、解答者のモチベーションは一段とアップする。
『笑っていいとも!』の水曜日、“本物のセレブは誰だ”のコーナーは、紹介された三商品を松竹梅と値段の高い順に並べるクイズ。
 二万円のバスローブ、四万円のバスローブ、二十万円のバスローブ。「バスローブなんて使わない」と消極的な気持ちになりそうな時に、正解者には銀座の名店のケーキがプレゼントされると知らされれば、俄然やる気が湧いてくる。
 たかがケーキ、されどケーキ。自分で買えばいいと分かっていても、目の前にブラ下げられたケーキ一つが、正答の原動力となる。
 ところが、『クイズミリオネア』で賞金一千万円となると、これまた勝手が違う。
 一般視聴者の挑戦ならば、一千万円には手が届かないと悟って、途中の五百万円でも、七百五十万円でもリタイアすればいい。でも、僕らはそうはいかない。最後まで戦って一千万円を手にするかしないか、二つに一つ。なにしろ潔く戦う姿を見せるのが、僕らのお仕事なのだから。
 さて、今回の番組では優勝者に何をくれるのだろうか。さすがに公共放送で、高額賞金はないだろう。
 その昔、『連想ゲーム』の勝利チームは何も頂けなかった。僕がレギュラー解答者を務めた『ゲーム数字でQ』では、優勝者に番組のマスコット“スージーちゃん”のぬいぐるみを贈っていた。『クイズ日本人の質問』トップ賞は、出演者をイラストにした特製ルービックキューブをくれた。
 待てよ、今日の僕は解答者ではなく、ヒント係の天使ではないか。優勝もなければ、賞品もないに決まっている。
 それでも、天使の僕は大満足。こんな重大なヒントを教えても答えが浮かばない解答者が“お間抜けさん”に見えたり、放送作家が台本に書くヒントが意地悪だったり、とクイズ番組の裏側を楽しめた。
 いや、手元に賞品のないクイズ番組の帰り道は、やっぱり寂しい。

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