週刊新潮 八月九日号
「石原良純の楽屋の窓
」
211回
20対1
スタジオに並ぶのは、下は十八歳から、上は二十九歳までの艶やかな二十人の女性。職業は、学生やOL、なかにはバーテンダーやトラック運転手などという変わり種もいる。
二十人が思いおもいに着飾って、バッチリメイクで髪はフルセット。色気と色気のぶつかり合いは、ただでさえ華やかなバラエティー番組のセットを、一段と賑やかす。だが、そんな『恋のから騒ぎ』(日本テレビ系・八月四日夜)のスタジオは、男性ゲストの僕にとって決して居心地の良い場所ではなかった。
二十人と対座するゲスト用のスツールが、これまた絶妙に座りにくい。ペッタリ座り込めば足がブランと宙に浮き、軽く寄りかかれば重心を失ったスツールがグラリと動く。集中して番組に打ち込めるポーズが決まらない。その上、スツールにズボンが引っぱられて裾が伸び縮み、ズボン丈と靴下の見え具合が気になって仕方がない。
ゲストの唯一の味方が、司会の明石家さんまさんだ。二十人の視線に耐え切れない時、彼女達の話についていけない時、僕は必死に目で救いを求めた。
しかし、番組開始以来十三年間、素人の女の子達をトーク舞踏会で踊らせてきたさんまさんをしても、近頃の女の子は難物のようだ。
時には、彼女達の会話が男性頭脳の理解を遥かに超え、異次元の彼方へワープしていく。
この日のテーマは”彼の器の小ささが見えた瞬間”。二十人が自分の体験談を元に、自分勝手な男性観を披露した。
大きく身振り手振りを交え、大口開けて笑いながらトークする彼女達の姿は、熱帯魚にもポケモンにも見えてくる。彼女達の語るストーリーから、女がやたら強くなった事と、男がやたらと情けなくなった事は僕にもよく分かった。
僕が普段の生活でそんな熱帯魚と袖触れ合うのは、『笑っていいとも!』の収録がある新宿アルタの非常階段ぐらいのものだ。
スタジオと商業スペースが混在する雑居ビルのバックヤードは不思議な世界。
タモリさんをはじめとする出演者の楽屋と、若者のファッションリーダーたるブティックのハウスマヌカンさん達の休憩スペースはお隣同士。僕らには、かろうじて人数分の個室が用意されているものの、マヌカンさん達は、小さな食堂一つの中で、交代に休憩をとっている。
マヌカンさん達のお昼休みは、ちょうど”いいとも!”の生放送中。食堂に入りきれないマヌカンさんが、僕らがスタジオへ行き来する非常階段の踊り場に腰をおろして、サンドイッチをパクついている。
それでも両者は、言葉を交わすことも、ジロジロ視線を交えることもない。たとえ、SMAPのメンバーが通りかかっても、彼女達は見向きもしない。こちらも仕事ならば、あちらも仕事。プロ同士の暗黙の了解が成り立っている。
髪の毛まっ茶な女の子と話す機会があるとすれば、キャバクラか。高い金を払って女の子に気を遣う。そんな相手が、ゆうこりんもどきや、しょこたんもどき。
でも僕らは、スタジオで本物の小倉優子チャンとも中川翔子チャンとも楽しく会話する。だいいち彼女達は、ちゃんと先輩を気遣ってくれる。そう、バラエティー番組は、夜の巷へ出かけるよりずっと楽しかったりもする。
素人娘さんを相手して、どっと疲れて帰宅した僕は、”僕の器の小ささが見えた瞬間”があるかどうか、念のため女房に聞いてみた。
「おつりの百円を返せと言われた時」
でもそれは、お金を払ったのは僕なのだから、僕がおつりを返してもらうのは当然なのでは。
我が家でも、男は不当な批判に晒されている。
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