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週刊新潮 四月十六日号
「石原良純の楽屋の窓 」
294回
科学の春

 バァーンと大音響を上げて、コンクリート塊は砕け散った。
 圧縮機によってコンクリートに加えられた力は、一平方センチメートルあたり一・五トン。ゾウ一頭分の重さに相当する。強化コンクリートの強度は、通常のコンクリートの五倍から八倍あるという。こうした強化コンクリートが、高層ビルを足元から支えている。
 僕らが訪れたのは、神奈川県厚木にある『フジタ技術センター』。建設会社の研究所では、コンクリートや鉄筋などの建築資材から免震構造の建築技術まで、建物に関する様々な研究がなされている。
日本の将来のために、地球の未来のために、実験、開発を続ける様々な研究所を、”研究”してしまおうというのが、この四月からの新番組『ラボ☆マイスター』(フジテレビ・毎週水曜夜)。
 十二時四十五分スタートという深夜のプログラムではあるが、僕らも研究者の頭脳の一端に近づこうという、至ってまじめな科学情報番組だ。
 TMD床振動制御装置は、地震の縦揺れを抑制してくれる。床が振動すると装置のおもりが共振し、おもりが揺れることで床の揺れが小さくなる。歩道橋やショッピングセンターの渡り廊下などに使用されている。
 積層ゴムは、地震の横揺れを軽減する。金属とゴムをミルフィーユのように重ねた積層ゴムは、縦の力に強く、横の力には柔軟性がある。建物をしっかり支えつつ、地震の揺れを逃がしてくれる。
 免震構造がセールスポイントだった僕が暮らしていた巨大マンションにも、たしかこの技術が活かされていたはずだ。
 研究所には現代を担う技術もあれば、次世代を担う技術もある。低放射化コンクリートの講義には「ウム」と思わず声を漏らしてしまった。
 原子力発電をはじめ核施設では、放射線が外部へ漏れぬよう遮蔽しなければならない。放射線は物質を通り抜ける性質があるが、どれだけ通り抜けられるかは放射線の種類とエネルギーによって違ってくる。α線は紙でとまり、β線はアルミホイル、γ線は鉛板、中性子線は水やコンクリートでとまる。
 普通のコンクリートは、中性子との核反応で内部に放射能が生成、蓄積されてしまい(残留放射能)、コンクリート自体が放射線(誘導放射能)を出すようになってしまう。
 そこで、Co(コバルト)やEu(ユーロピウム)など残留放射能になりやすい元素が少ない砂や砂利を選定する。そしてコンクリートを構成する骨材、セメント、混和材の配合比をコントロールすることで低放射化を実現した。
 残留放射能は、酒を飲んで酔っ払った状態。誘導放射能の話はアルコールの勢いで周りに迷惑をかける様子。放射能を酒の話に置きかえて、金野正晴博士は、僕らにも理解できるようにと、一生懸命に解説してくださる。
 オカッパ頭の髪を振り乱し、腰をくねらせ、「ピッピッピッ」と飛び出る放射線を手ぶりで表現する愉快な姿は、とても低放射化コンクリートの第一人者には見えない。
 そんな博士は記憶力抜群の少年で、星を一つ見つければプラネタリウムのように全天の星空を思い描けたという。記憶することより考える過程に興味を抱く青年が選んだのは、誰も知らない謎を解き明かすこと。当時の最先端技術である原子核力学、今でいう量子色力学の道に進まれたのだ。
 コバルト59に中性子がドカーンぶつかって、コバルト60になってピッピッピッと誘導放射能を撒き散らす。
 僕の頭に浮かんだCG画像がまったく正しいとは思えないが、科学するのは、メッチャ楽しい。

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