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週刊新潮 十月七日号
「石原良純の楽屋の窓 」
121回
九時だ帰ろう

「良純クンの新幹線の時間があるから、九時には終わりましょう」
 司会のみのもんたさんが、真顔でスタジオの出演者、スタッフに告げる。
 ない、ない。僕に新幹線に乗る予定などありはしない。収録を早く終えたいのは、この後、みのさんが夜の街に一刻も早く繰り出したいからでしょうが。
 これがいつもの、みのさんの番組前のウォーミングアップだ。自分で自分への御褒美を目指して、みのさんは二時間の特番収録をエンディングまで一気に駆け抜ける。
『衝撃スクープ裏のウラ』(日本テレビ系・八日夜放送)では、天災、人災、事件、事故、スポーツ、動物など、ジャンルを問わず、テレビカメラが捉えた衝撃映像を矢継ぎ早に紹介する。まさに、元気溌剌みのさんらしいプログラムだ。
 番組に登場した数十本の衝撃映像の中で、僕が最も引かれたのは、やっぱり土佐湾沖の竜巻映像だ。
 寒冷前線が通過中なのだろう、空は夕日のオレンジ色と怪し気な黒雲の、明と暗の二色にクッキリと色分けされている。その黒雲の軒先を支える柱のように、雲の縁にそって三本の竜巻が現れた。
 僕は以前、本物の竜巻をこの目で確かめたくて、竜巻の本場であるアメリカに出かけたことがある。
 カンザス州、オクラホマ州、テキサス州をはじめとするグレートプレーンズ(中西部大平原)。そこには五月から六月初旬にかけて、ロッキー山脈を越えて吹き下りる冷たく乾いた風と、メキシコ湾から北上してくる湿った暖かな風がぶつかって巨大積乱雲(スーパーセル)が発生する。そしてその下には、巨大竜巻(トルネード)がしばしば発生することが知られている。
 何も遮る物がなく地平線まで真直ぐに伸びたフリーウェーを、時速百マイルでふっ飛ばし竜巻を追い求める姿は、映画『ツイスター』に登場したトルネード・チェイサーそのものだ。
 実際、僕が参加した『クラウド9』(最大級に発達した積乱雲の意味)の主催者も、ツアー客を案内すると同時に、トルネードの写真や映像を自分の手で撮影することに命をかける、本物のトルネード・ハンターなのだ。
 グレートプレーンズは、日本の国土の約十五、六倍もある。竜巻を追っての一日の走行距離は千キロにも達する。朝、東京を出発し福岡に向ったが、新潟に雲が出るからと途中の大阪で北陸道に乗り換える。トルネード・ハンティングはそんな壮大なスケールだ。
 トルネードは、南西から北東へ進行する積乱雲の右最後尾に発生することが解明されている。
 つまり、竜巻を安全に観察するには、積乱雲の下の暴風雨を避けるために、後ろ右側から雲に接近することが必要なのだ。
 現れる巨大積乱雲は東京二十三区ぐらいの大きさ。
 ちょうど、二十三区の羽田空港あたりに発生する竜巻に、北の東北道や西の中央道から近づくのではなく、一旦神奈川県へ下り、横羽線か湾岸線を使って羽田を目指せということだ。
 だが、いくら安全を期していても大雨や雷に見舞われることはもちろん、時には突風が車を揺すり、ピンポン球ほどの雹がボンネットに叩きつけることもある。そんな悪戦苦闘の二週間で一万キロ以上走っても、僕は結局、竜巻と出会うことができなかった。
 それがひょっこりと、土佐湾の沖に現れたのだ。それも三本。三本同時に竜巻が現れた映像は世界的にも大変珍しく、研究機関に提供されたという。
「どの映像が、おもしろかった」
 番組の最後に、みのさんがパネラー一人ひとりに質問すると、時計の針はちょうど、九時を指していた。
 お見事。

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