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週刊新潮 十月二十一日号
「石原良純の楽屋の窓 」
123回
僕のPQ

良純は、兄弟の中で一番IQが高いからな」
 なんだ、なんだ、その怪しい発言は。親父のそんな言葉に、兄貴も弟もフムフムと頷いている。親父の誕生会の晩餐で石原家の政治家三人組は何を企んでいるのか。
 頭の良さを表す時に使われるのがIQ(知能指数)だ。だが世の中、頭がいいだけでは生きていけない。その場に応じた柔軟な対応、局面を打開するアイデアを生み出す力が必要だ。そんな人間の能力を番組独自にPQ(潜在能力指数)と規定し、各々のPQを高めようというのが『島田検定!!』(TBS系)だ。
 二十二日の放送は二時間の特別版。“あなたならどうする?”と銘打った後半戦では、“結婚指輪をはずして帰宅したのを妻に見咎められた”“車に女性の長い髪の毛を発見された”など、日常にありそうな状況をいかに納得させるか、その言い訳を考える。正解は一つではないから、採点基準は司会の島田紳助さんの答えとの比較。
 ところが、実体験を基にした防衛策なのか、生まれ持っての才能なのか、紳助さんから、今後、僕の人生にもそのまま活用できそうな名文句がポンポン飛び出してくる。得点を得るのは容易ではなかった。
 もう一つ驚いたのは、コント赤信号のリーダー・渡辺正行さんと、元シブがき隊・薬丸裕英さんと僕のチーム名が“ベテランチーム”だったことだ。確かに廻りを見回せば出演者の中で年齢的には僕はかなり上。それでもベテランと呼ばれるのはいささかこそばゆい。
 ベテランといえば、僕のデビュー作・映画『凶弾』の共演者ならば、若山富三郎さんを筆頭に、加藤嘉さん、神山繁さん。今年の大河ドラマならば、平幹二朗さん、小林稔侍さん、大杉漣さんといったところか。
 目を瞑っていても、一言セリフを聞けばその俳優が演じている姿、形が思い浮かぶ。何も語らずとも画面の片隅に居るだけで、物語の信憑性を裏打ちする。
 ベテラン俳優さんは台本をセットに持ち込まない。僕はといえば本番寸前まで台本を開いては閉じ、開いては閉じセリフを口の中でぶつくさチェックする。
 先日も、共演者の若い俳優さんに、「良純さんは、リハーサル、ランスルー、本番と毎回違うセリフを投げかけてくるが、最後の最後にはきっちりストーリーを繋ぎ合わせる」と褒められたような、ダメ出しされたような。
 諸先輩には随分とご馳走になった。若手は撮影所に財布を持っていく必要はなかった。食事が終わったらペコリと頭を下げればそれで済んだ。
 僕も先輩達を見習ってこの夏、連ドラ共演の若い俳優さん達を夕食に誘った。
 焼肉屋の前を通り過ぎ、寿司屋の前を通り過ぎ、ぶらりと歩いて辿り着いたのはファミレス風イタリア料理だった。
 別にセコいわけではない。カジュアルな店の雰囲気が若者に良かれとの選択だ。「なんでも好きなものを頼みなさい」とは言ったものの、皆でサラダバーに並びスパゲティを食べるのは、その昔、渡哲也さんや舘ひろしさんに連れて行かれたイタ飯屋とはたいそう趣きが異なった。
 帰り際、暗い夜道に皆を置き去りにしたのもまずかった。僕の頭の中には“先輩の車が走り去るのを見送る若者達の図”がしっかり描かれていたのだが、残された皆は、郊外の撮影所からとぼとぼと帰ったという。
 なるほど奢られる者には“お礼を述べるタイミング”、奢る者にも“相手を満足させる気遣い”とそれぞれPQが必要というわけだ。
「良純は頭は良いが、頑固で融通が利かない」
「人の話を聞け」
 なんだ、なんだ。最後はケチョンケチョン。僕はやっぱり酒の肴にされていた。

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