週刊新潮 十一月九日号
「石原良純の楽屋の窓
」
126回
α波とθ波を出そう
世界でセレブの仲間入りを果たし活躍する日本人、その成功の秘訣を紹介するのが『金のA様×銀のA様』(日本テレビ系)。
今宵の主人公は、アイドル歌手から駐日スロヴェニア大使夫人となり、今は森と湖に囲まれたヨーロッパ有数の自然豊かな国で外交官夫人として暮らす女性の物語り。
まるで童話の世界をVTRで眺めるのは楽しいが、番組最後のおまけコーナー“世界の通販グッズ紹介”にはドッと疲れた。
スタジオに登場したテーブルには、モニター画面と五百円玉程の小さなボールが載っている。テーブルの両端からはコードが延び、ヘッドホンのようなものが繋がっていた。
実はこれ、“マインドボール”と呼ばれる、スウェーデンの国立研究機関が開発したゲーム機。この機械でトレーニングを積めば、自己制御能力が高められ、どんな時にも平常心が保てるようになるという。
両端から延びるのはセンサー。プレーヤーの額に装着されて脳波を測定する。
脳波にはリラックス状態を示すα波、せかせか状態のβ波、まどろみ状態のθ波があるという。
ゲームはよりリラックスした方の勝ち。センサーがプレーヤーのα波とθ波を感知すると、テーブルの中央のボールを対戦相手の陣地へ押しやる。攻め込まれた側も瞑想を深め、リラックス脳波を出せばボールを押し戻す。勝負は数分間に及ぶこともある。
観客はモニターに現れる脳波のグラフとプレーヤーの表情を見比べて楽しむ。最後はボールを相手陣地に押し込んだ人の勝ち。
おすぎさんとピーコさんの対戦は、試合開始と共に二人は目を閉じた。最初、ボールはゆっくりとピーコさん側に向って動き出す。形勢不利を悟ったピーコさんは、おすぎさんに話しかける。今度は、瞑想状態を邪魔されたおすぎさん側にボールは転がった。会話することでリラックスする人、黙っていた方がリラックスできる人。人それぞれにリラックス法がある。
さまぁ〜ず・三村マサカズさんと極楽とんぼ・加藤浩次さんの対戦では、加藤さんは自分が頭に思い描く世界を実況する。
リラックスするなら家が一番。自宅のゴロ寝姿を思い浮かべる。奥さんと子供が帰ってくる。奥さんに生活態度をなじられ、幼い子供が泣き出した、とイメージは膨らむ。するとモニターの波形はおもしろいように波打ちはじめる。
作戦変更、リラックスにはやはりキャバクラ、と想像の世界は街へ出る。お店でおねえちゃんに囲まれて、脳波は安定。もっとリラックス、と女性をアフターに誘い出した途端、興奮状態のβ波がモニターに現われ、テーブルの上のボールは加藤さん側に転がった。
最終戦は、僕と勝俣州和さんの対戦。どこでもすぐに眠れるリラックス人間を自認するカッちゃん。現場移動の車内でも滅多に眠ることのない僕の戦い。僕が不利と思われそうだが、さにあらず。なにしろ僕には、究極のリラックス術があるのだから。
ようやく秋も深まり、澄んだ空気の中に遠く丹沢の山々を望む多摩川の河原を想像する。河口から吹く夏の南風は、上流からの北風に変わっている。冷たいアゲンストの風を頬に感じながら青空の一番高いところに流れる雲を追いかけ、川上へと土手を走る。空を眺める、走る、のリラックス・ダブル効果の情景で勝利は間違いない。
それにしてもこのゲームは、リラックスするためにスタジオの明かりも共演者の声も消えてなくなるまで脳みそを集中させる。あとには、サイズの小さい帽子を被ったような鈍い頭痛が残った。
この機械は、本当に体にいいのかよ。
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