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週刊新潮 十二月八日号
「石原良純の楽屋の窓 」
130回
こらっ、寝るな!

冬の日本列島を、気圧の谷が通過してゆく。だが、日本海を進む低気圧からヒョロリと伸びた寒冷前線の雲は、関東平野を取り囲む山々に塞き止められて、平野部にまとまった雨をもたらすことはない。
 雲の一団が去り、木枯らしが道に散った落ち葉を宙に舞い上げる頃、列島を駆け抜けた低気圧は、北太平洋・アリューシャンの海で猛烈に発達する。
 低気圧の墓場とも呼ばれている海で、大きな雲の渦巻きがのたうち廻り、極寒の海が台風並の大時化を引き起こす。やがて、波はうねりとなって、太平洋を下ってゆく。
 冬のハワイ・オアフ島の北岸・ノースショアは、ビルほどの大波が次々に押し寄せるサーフィンのメッカだ。そして、この大波の正体が、アリューシャンの低気圧のうねりに他ならない。
 もし、東京でパラリと冷たい雨に降られ、それから十日後、ノースショアでサーフィンを楽しんだとすれば、雨も、波も、同じ低気圧の天からの贈り物というわけだ。
 空に垣根はない。国境もない。今、見上げている空は常夏の南の島にも、凍てつく北辺の大地にも継っている。雲は何ものにも遮られることなく大空を駆け巡る。何とロマンチックな話だろう。
 ところが、番組中に僕がこんな話にいくら熱弁を奮っても、気がつくと出演者の半数が眠ってしまう。空の美しさ、空の楽しさを知ってこそ、地球温暖化の足音をぐっと身近に感じられるというのに。
 そう、芸能人の皆さんは環境問題に対する危機意識が薄すぎる。今の時代、新聞を広げれば毎日、必ず“温暖化”の文字が紙面のどこかに躍っているはずだ。
 先日、夕刊各紙に“レジ袋”の話題がのぼっていた。
 レジ袋の無料配付禁止についてアンケートしたところ、五十五パーセントの人が賛成し、反対の二十パーセントを、大きく上回っていた。
 僕のように天気予報に携わり毎日データを眺めていなくても、季節の巡りが少しおかしくなってきたのではないかと多くの人が危惧を抱いている。余計なレジ袋なんかいらないと、まずは自分に出来る範囲のことから生活を改めようとしていることが分かる。
 省エネと同時に、エネルギーを何から得るのかも考えなければならない。
 日本の電力事情は、約六十パーセントを石油・石炭・天然ガスの火力発電に依存している。化石燃料を燃やせば、地球温暖化ガスの代名詞・二酸化炭素が発生する。
 二酸化炭素は、地球の余った熱を逃がす役目を果たす赤外線を…、皆さん寝てしまうから話は割愛するが、とにかく二酸化炭素の出ないエネルギー源を模索しなくてはならない。
 『素敵な宇宙船地球号』(テレビ朝日系・日曜夜)が、二酸化炭素削減の切り札として紹介するのは、ミニ水力発電。僕は、手作りのミニ水力発電の実験に山深い奥美濃のせせらぎを訪ねた。
 子供の頃の科学誌の付録のような発電機の小さなタービンが、せせらぎの水流で見事に電球を点灯させた。
 深い山や森は、獣や木の実といった食料だけではなく、電力までも人間に提供してくれる。自然の恵みの奥深さに驚嘆した瞬間だった。
 そんなミニ水力発電の電力を利用して、十二月九日から京都の観光名所・渡月橋がライトアップされる。
 漆黒の嵐山の山並に、ぼんやりと浮かび上がった橋の影。
 都会のライトアップのような派手さは微塵もない橋の下を流れる桂川の水量分だけの明かり。嵐山の自然が作り出す明かりこそ、嵐山の景色にピッタリとマッチするということだ。
 ほらっ、また寝てる。寝るな。

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