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週刊新潮 十二月十五日号
「石原良純の楽屋の窓 」
131回
師走の疾走

 師走だ師走。
 レギュラー番組収録の年末調整、そして、年末年始の特番、秋ドラマのラストスパート……、と坊さんならぬ芸能人も慌ただしく巷を駆けずり廻っている。
 こんな忙しい時期に限って体調管理が難しい。忘年会シーズンに突入した今、一生懸命に働いたならばこそ、仕事仲間と共に♪飲んで飲んで飲まれて飲んで♪酒が旨いというものだ。
 翌朝、ベッドで目覚めると、前夜の記憶も朧げで頭の中にはエコーがかかる。ため息つけば、体の奥からアルコール臭が漂い出てくる。
 二日酔いで胃の調子が悪くなる。食欲が落ちて体が弱る。弱った体がカゼ菌を拾う、これが僕の典型的なカゼひきパターンだ。
 なにしろ、グンと寒さの増した師走の街角には、カゼ菌が溢れている。旅客機の搭乗口で白いマスク姿の人を見つけると、「どうぞ、席が離れていますように」と念じるが、そんな時に限ってマスクのおじさんが隣の席に乗り込んできたりもする。
 滑走路上で離陸のタイミングを待つ機内、静寂の中に響く咳の音。一つの咳が堰を切り、コホン、コホン、コホンと咳がキャビンに充満する。何万、何億のウィルスが飛び散ったと思うだけでも、そら恐ろしい。
 先日、年末特番ロケに早朝集合したロケバスの中でのこと。最後尾の座席に寝転がっていた、ガレッジセールのゴリさんは白いマスクをしていた。カゼっぴき、近づくのはよそうと思ったが、聞けば、カゼ予防のためのマスクなのだそうだ。
 年の瀬を目指して突っ走り、大晦日には紅白出場が決まっている。カゼをひいて周りに迷惑はかけられない。だが、マスクしながらも、番組の最後には寒風吹き荒ぶ中、赤坂見附のお堀に落ちるのだから、芸能界は楽ではない。
 僕は紅白に出場はしないけれど、正月休みを目指して、突っ走るのは同じだ。気がつけば、朝もはよから高田馬場のスケートリンクを突っ走っていた。
 これは、すっかり年末の恒例となった正月特番『戦うお正月』(一月一日午後・テレビ朝日系)のロケでのこと。
 海外から子供たちを招いて、初体験のスポーツで対決する企画は、今回で四回目。今年はアルジェリアとバハマの子供たちがやって来て、“初めてのアイススケート対決”となった。
 アルジェリア・チームの監督が僕。相手チームは例年ならば錦野旦さんが監督なのだが、今回は腰痛を理由に監督を辞退。花田勝さんとの対決となった。
 しかし、いざアイススケートとなると、子供たちに教えるよりも何よりも、まず僕自身の足元が覚束ない。なにしろ、スケート靴を履くこと自体が十五年ぶりのことなのだから。
 当時、都内にも拘わらず家の近所には、冬季限定の屋外アイススケートリンクがあった。僕は、冬の凍えた星空を眺めながら白い息を吐き吐き滑る楽しさに熱中した。 
 その時に会得したスケート上達の極意が、「早く滑れるようになりたいのならば、貸靴ではなくマイシューズを購入せよ」ということ。
 数しれぬ下手っぴが履いたレンタルシューズは、靴の底がへたっている。足首がしっかりホールドされなければ、なかなか上達は望めない。
 ところが、そんなマイシューズを僕は、この六月の引越しで捨ててしまっていた。近所の冬季限定リンクはもちろん、今やアイススケートリンクは都区内には二ヵ所しか残ってないとか。まさか再びリンクに立つ日が来ようとは思ってもみなかったのだ。
 さて、バハマ・チームとの対決結果はいかに。それよりも、僕は怪我なく、カゼなく、無事に年の瀬を迎えられるのだろうか。

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