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週刊新潮 一月二十六日号
「石原良純の楽屋の窓 」
135回
ヌード・トランプ

『笑っていいとも!』水曜レギュラーの七人のうち、五人が一月生まれ。というわけで、新年第一回の生放送収録後、五人合わせての誕生日会となった。
 庄司智春さんが一月一日。田中裕二さんが十日、柴田理恵さんが十四日、僕が十五日で、乙葉ちゃんが二十八日。
 バースデイケーキは、高野フルーツパーラー特製の三段重ねフルーツショートケーキ。
「五人なのだから五段だろ」とタモリさんがつっこめば、「五人一緒で、フジテレビは経費節約」と太田光さんが悪態をつく。
 番組では、出演者の誕生日には放送のオープニングで必ずケーキを出して祝ってくれる。確かに、その時のケーキと比べると、五人合わせたにしては三段ケーキはやや迫力を欠く。その上、大きなケーキを切り分けるのに手間取ったのか楽屋にケーキの切り身も廻ってこなかった。もちろん、ダイエットを心がける僕はケーキは食べません。でも、ちょこんとケーキの天辺に載っかった球カットのマスクメロンは食べたかった。
 そんなセコイ話はさておき、誕生日の過ごし方やプレゼントの思い出を話題にトークは大いに盛り上がる。
 僕の誕生日は旧成人の日。幼稚園も学校も休みだったから、十五日に必ず誕生日会をやってもらえた。友達を呼んで手打ち野球をしたり、ゲームをしたり。最後はバースデイケーキのロウソクを吹き消して、プレゼントをもらってお開きとなった。
 僕の記憶にあるのは、母親と兄弟と友達に囲まれた誕生日会。そこに親父の姿を初めて見つけたのは、五年前『石原家の人びと』を刊行するにあたり子供時分の写真を整理していた時のことだ。
 バースデイソングが終わり、宴席の中央に座った僕がロウソクの火を吹き消そうとした瞬間、まるで沸き上がった黒雲のように親父が僕に覆い被さり、頭越しに一陣の風を吹き下ろし、ロウソクの火を消そうとしている。
 子供の僕は、ロウソクの火を消されることが本当に嫌だったに違いない。覆い被さる親父が本当に恐かったに違いない。
 嫌な物、恐い物を見ないようにする。見ても見なかったことにするのが、か弱い子供のせめてもの防衛本能だ。だから、僕の誕生日の記憶には親父の姿が微塵も残っていなかった。
 親からのプレゼントは、商店街の玩具屋さん“のんき屋”へ行って好きな玩具を一つ買ってもらえること。もちろん、買い物に親父が同行しようはずもない。子供の僕は、プレゼントは母親からのものと心得ていた。
「親父さんからも何かもらったでしょ」と皆さんに詰め寄られ、僕はようやく幼い日の父からのプレゼントを思い出した。
 幼稚園年長組の僕にくれたのが、プレイボーイ版ヌード・トランプ。ハートのエースだかに髪を掻き上げる全裸のマリリン・モンローを筆頭に、五十二枚びっしりと、ブロンド、栗毛、黒髪の外国人のおねえさんヌードが並んでいた。
 親父の著書『スパルタ教育』から引用すれば、石原家の家訓の一つに“子供にヌード画を隠すな”となる。確かに我が家では居間にデンと外国版プレイボーイが転がっていた。でも、一挙に押し寄せた五十二人のおねえさんは、僕にはかなり刺激が強かった。
 親父からトランプを手渡された僕は、トランプの存在を友達はおろか兄弟にも告げられない。それでも男同志の暗黙の約束、母親に言ってはならないことは理解していた。
 エメラルドグリーンのクッキーの空き箱に僕はトランプを隠し持ち、時々、一人眺めて楽しんだ。
 僕も長男・良将クンに、何か刺激的なプレゼントを考えるとするか。

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