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週刊新潮 二月二日号
「石原良純の楽屋の窓 」
136回
あぁっ、驚いた

0℃は氷点。液体の水が固体の氷になる温度だ。ところが水の温度をゆっくり下げてゆくと、0℃を過ぎても凍らない。そんな0℃以下でも液体のままの水を過冷却水という。
 大空に浮かぶ雲は、無数の過冷却な水滴と、氷粒子や雪などの氷晶から出来ている。
 雲の中では水滴が蒸発し、氷晶がどんどん大きくなる。そして、数百万倍にも大きくなり、やがて重力に堪えかねて地上に落ちる。融けずに落ちてくれば雪。融けて落ちれば雨。
 過冷却な水滴は不安定だから、衝撃を与えると途端に凍りつく。雲粒のほとんどが過冷却な水滴で出来ている雲に飛行機が突っ込めば、翼にぶつかった水滴が凍りつき墜落事故を引き起こす。航空機の黎明期には、着氷事故が多くあった。
 水不足の夏、水源地の上空にそんな雲が浮かんでいたら刺激してやればいい。雨粒の芯となるヨウ化銀を雲に向ってばらまけば、過冷却な水滴がヨウ化銀にくっついて、人工降雨が可能となる。
 日本でも実用実験が行われているし、中国では高射砲部隊がヨウ化銀弾を雲に向って撃ち込んで降水を得ていると、どこかの番組で見たことがある。
 そんな不思議な過冷却水を台所の冷蔵庫で造り、その特性をいろいろと実験で確かめてみようというのが『不思議がいっぱい にいがたキッチン研究所』(BSN新潟放送二十九日)。
 ペットボトルにタオルを巻いて、ゆっくり冷やせば過冷却水の出来上がり。
 乱暴に栓を開けようと振り廻したり、テーブルにどすんと置いただけで、ペットボトルの水はたちどころに真っ白い氷となる。静かに栓を開けてゆっくりビー玉を沈めれば、ビー玉が凝結核となり、ビー玉がボトルの底に届く前に、ビー玉を中心にペットボトルの水は凍りつく。
 番組では、化学や物理の高校の現役の先生が、ペットボトルをはじめ、どこの家の台所にもある品々を使い、レーベンフックの顕微鏡の再現や、ダイラタンシーの実験を、次々と僕たちの目の前で見せてくれた。
 でもこの日、驚いたのは実験ばかりではない。日本海側は大雪と連日報道されていたのに新潟市内に全く雪が無かった。雪に滑って転んで埋もれてしまうからと、新潟行きを最後まで渋っていたウチのマネージャー女史も拍子抜けの様子。
“大雪は山雪型。新潟市内は、沖合の佐渡島が北西の季節風のブランケットになるから、雪は少ない”と言ったはず。僕の言葉を信じなかったのも腹立たしい。
 そんな不逞の輩はともかく、一番驚いたのは一緒に実験を楽しんだ子供達の物怖じしない態度だ。
 セット代わりの住宅展示場の室内には、制作スタッフ、技術スタッフ、スポンサー関係と人が溢れている。子役でも劇団員でもない一般募集の小学生が、平気な顔して自分に割り振られたセリフをしゃべる。高校教諭の方々の方が上がって、途中でしどろもどろになりNGを連発していた。
 僕が子供の頃には、こんなふうに見知らぬ大人に囲まれることは決してなかった。だいいち、親、先生以外の大人とは口を利くものではないと教わっていた。
 日本テレビに貴重なVTRが残っている。石原慎太郎家の家族インタビューの僕は、小学三年生。兄貴は、日頃、家にいない父親のことを、「父さんは父親としては0点です」ときっぱり言い放ち、弟たちは横から大声出して親父に叱れている。でも僕は、母親の後ろに隠れてもじもじ聞かれたことにも答えられずにいた。
 そういえば、ウチの長男・良将クンも、カメラを向けると顔を隠してしまう。でも大丈夫、良純お父さんも最近はカメラに向ってくっちゃべっているから。

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