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週刊新潮 二月九日号
「石原良純の楽屋の窓 」
137回
三週間坊主

SMAPの中居正広さんに、麹町・日本テレビで会ったら痩せていた。品川庄司の品川祐さんに、新宿・アルタで会ったら痩せていた。衆議院議員の石原伸晃氏に、生田スタジオで会ったら痩せていた。
 こりゃまずい。僕も痩せなければ。僕が顎の下にプックリ膨らんだ肉を摘みながら、スリム化計画を決意したのは元旦のこと。
 ちなみに、僕の日記は、正月松の内を越えたことがない。
 無理はいけない。長く続けるには、自分が楽しめる方法を選ばなければ。炭水化物を一切排除することも、禁酒することも、僕には難しい。ジムに出かけてトレーナーの指示に従うのも煩わしい。僕は至って単純に、走ることに決めた。
 次に問題は、期間の設定。ここが受験知らずの付属校育ちの情けなさ。期末テスト寸前の集中力には自信があるが、一年も二年も努力を積み重ねる根性など、からっきし持ち合わせてない。
 三日坊主のジョギングでは、減量効果は望めない。ならば三週間ぐらい、僕は、ちょうどよい目標を発見した。
 一月二十一日は、農林中央金庫・JAバンクのポスターの撮影日だ。岡本綾さんとのツーショットで、プックリ笑顔では締まらない。ニュースキャスターを模した構図の僕は、勧善懲悪なキリッと引き締まった笑い顔をしていなくては。
 いざ飛び出した近くの公園のジョギングコースは、さすがに元旦ということで人影も疎ら。ならば大きなストライドで疾走してやりたいところだが、重たい体はいっこうにペースが上がらない。
 ジョギングコースは、スタートラインから二千百メートルまで距離が標示されている。残りの端数を歩測してみると四十三歩。百メートルは九十五・六歩だからプラス四十メートルといったところか。
 一周二千百四十メートルならば、五周で十キロ強。いやいや、三週間の短期決戦にはちょっと物足りない。期末テストを乗り切るために、きっちり勉強の時間割を机に貼っていたように、ここぞの時には自分自身で自分の体にムチをくれてやらねば、日頃のなまけが染み付いた体にダイエット効果があろうはずもない。
 二・一四×七で十五キロ。そこをゆっくり、キロ六分ペースで、毎日一時間半、走ることと決めた。
 三日目に、早くも左足首を捻挫した。三日間で思いもよらぬほど足に疲労が溜っていたようだ。下り坂で足をパタつかせ、いらぬ力が足に加わったようだ。僕は湿布を貼って走り続ける。
 十五キロ走ってから仕事に出かけると、一日中、眠いのにも驚いた。移動中の車中はもちろん、天気予報の気象レーダーを眺めていても、欠伸が出てしまう。
 夜、眠っているとザワザワ痛む左右の足の筋肉の会話が聞こえてくる。
「おい、たまんねえな」
「止めちまおうか」
二つの足が走るのを拒絶したならば、きっと僕は、ガシッと足がつって飛び起きることになるのだろう。
 二週間も経過すると、潜水夫の鉄底靴を履いたような重い足にも慣れてきた。
 ところが、『笑っていいとも!』に向かう新宿アルタの歩道で、僕はバッタリ転んでしまった。
 車を降りて車道から歩道へと、ひょいと跨いだはずのしきりのチェーンが右足の脛に引っ掛かる。ならば、左足をステップさせればと足を浮かした途端、今度は左足首が下段のチェーンに引っ掛かった。
 僕がバタンと転がれば、スタジオ前の大勢のギャラリーは、オーッとどよめく。僕はヘラヘラ笑ってエレベーターへ急ぐほかなかった。
 もちろん、二十一日の撮影当日の朝だって、走った。その成果が、この笑顔。
 ウ〜ン、志、半ばというところか。

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