週刊新潮 四月二十日号
「石原良純の楽屋の窓
」
147回
先生もいっしょ
箸でつまんだ麺を、フーフー吹いて、小皿の酢に浸して食べる。これが猫舌の僕のラーメンの食べ方。だから、味を問われれば、どこのラーメン屋でもラーメンは「酸っぱい」と答えてしまう。
酒を飲んだ後のラーメンは一切なしと決めた“二十二歳の別れ”も、僕とラーメンに大きな距離を生んだ。
飲んで騒いで気がつけばラーメンをすすっている。学生気分で気楽極楽を繰り返せば、いとも簡単にプックリと頬が膨らんで、『西部警察』に新人刑事として配属された僕は、僅かの間に人の良さ気な丸顔の巡査になってしまった。
とはいえ、酒は止められない。ならばせめてラーメンだけはと、二十二歳の僕は決意したのだ。
飲みたい酒によってその日の夕食のメニューを考える僕には、ラーメンは食事の選択肢に入らない。メンマや焼豚などトッピングの品々は、ビールのお供にはなるが、麺でお酒は進まない。どうせ高カロリー食品を摂取するならば麺からではなく、もう一本のビールから栄養は取ろうじゃないか、と僕の触手はグラスに伸びる。
そんな僕には、ラーメン屋の前に並ぶなんて考えも及ばない。
僕の出身大学の校門近くにも、行列の出来る超有名ラーメン店があるが、僕は現役時代を含め、一度も入ったことがない。たとえ、それがどんなに旨いラーメンだとしても、ラーメン屋の行列に並んでいる自分の姿が自分自身で許せないのだ。人生は短い、時間はもっと有効に使わねば。
たんと時間のあった大学生の僕が、あんまり講義に行ってなかったのも、事実だけど。
どこをどう考えてもラーメン通とは思えない僕が、審査員に加わったのは、『VVV6』の春の二時間特番『日本一うまいラーメンを探す旅SP』(フジテレビ系・四月十三日放送)でのことだった。
番組では札幌・東京・博多で、ラーメン店の店主による人気投票のベスト4に選ばれた店を紹介する。僕は、三都市の中でも最大のラーメン激戦地といわれる東京の四店鋪を、V6の井ノ原快彦さんと森田剛さん、磯野貴理子さんと巡り、ナンバーワンを決定した。
結論から先に言えば、今のラーメンは凄い。その昔、逗子のソバ屋“越後家”から出前されたメンマと焼豚、なると、ほうれん草が載っかった支那ソバをラーメンの代名詞としていた僕の目からは、ポロポロと鱗がはがれ落ちた。各店が競う味は、僕の想像をはるかに超えた研究と努力がなされていることを初めて知った。
ラーメン道の奥義に全く無知な僕は、目の前に出されたラーメンが何ラーメンなのかさえ分からない。ラーメンが、塩、味噌、しょうゆの三種類なんていうのは遠い昔の話だ。豚こつ、鶏がら、海鮮スープ、研究を重ねて絶妙に仕込まれたスープが、ダブルスープだのトリプルスープだのとブレンドされてゆく。唯一、僕にも理解できたのは、今までに僕が食べたことのないおいしいラーメンがこの世には無数に存在するということ。
サプライズといえば品川区のラーメン店には、特別ゲストで弟・宏高が現われた。いや、宏高先生とお呼びするべきなのだろうか。
のれんをくぐって現われた先生に、僕は照れ臭いやら、先生が何をしでかすか心配やら、思わずカウンターに突っ伏してしまった。先生の発言一つひとつに胸はドキドキ。ラーメンの味さえしない。でも、半年間の議員生活で先生もずいぶんとバラエティの腕を上げたようだ。その成長にも、ちょっぴり驚いた。
アレッ、弟のおかげで、僕はキャスティングされたってこと。まっ、いいか、おいしいラーメンを食べられたし。
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