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週刊新潮 五月十八日号
「石原良純の楽屋の窓 」
150回
男はつらいよ

 十二日金曜夜の『仰天報告!ザ・熟年離婚 私がダンナと別れた本当の理由ベスト100!』(TBS系)は、その長いタイトルどおり、熟年離婚の現場の驚愕レポート番組だ。
「華がないというか。枯木と雑草の山だね」
 と、板東英二さん、間寛平さんをはじめとする男性ゲスト陣に向かって、いきなり和田アキ子さんから檄が飛ぶ。
 これは一緒に司会を務める僕の頼りなさを思い量って、番組を盛り上げようというアッコさんならではの言い廻し。でも、その言葉は男性には居心地の悪い二時間を象徴していた。
 番組では、熟年離婚に至った理由を、女性側にアンケート調査しランキング形式で発表していく。
 借金、浮気、暴力といった、誰もが頷くものもある。でも、一方的な言い掛かりとしか思えないものや、男性には想像もつかない離婚原因がずらりと挙がっている。
 ランキングは、コント仕立ての再現VTRでスタジオに紹介される。一つ一つの事例は“下らない”、と鼻で笑えるものもあるが、これだけ次から次へと並べ立てられると、女性は男性のこんなところを見ているのかと、自分の身に照らし合わせて不安になってくるから不思議なものだ。
“間違い探しドラマ”のコーナーでは、四分間のドラマの中に離婚理由が十個も隠されている。
 驚いたことに男性ゲストはスラスラと十個全てを列挙した。なるほど、僕ら男は“分かっちゃいるけど止められない”日常の連続なのだ、とまた変に納得する。
 結婚四年目、四十四歳の僕には、まだ熟年離婚は遠い存在だ。それでも、ランキング項目には、僕にバッチリ当てはまるものが幾つもある。
 第八十位は、“出産の時、夫は一度も見舞いに来なかった”。
 現実は厳しい。今や出産に立ち会うか、立ち会わぬかで男の優しさが問われる時代らしい。
 僕は、長男・良将の誕生を対馬の観光ホテルの宴会場で、妻本人からの電話で知った。出産に立ち会えなかったのは仕事なのだから仕方がない。酒を飲んでいたのも初産でそんなに早く産まれると思わなかったからだ。それでも、対馬の魚がいかに旨いかは、我が家では禁句となっている。
 自分の海外出張に合わせて、早く赤ちゃんが産まれるようにと、身重の奥さんに階段を歩かせて産気づかせる。その後、病院で奥さんの手をずっと握り、大きな声でエールを送り続けたのが、松岡修造さんだ。
 そんな松岡さんに女性の評価は二重丸。でも、僕には大きなバツがつく。なんか納得できない。
 第五十一位は、“記念日を忘れた”。
 これも、僕の大の苦手だ。結婚記念日、誕生日、初めて会った日、プロポーズした日。いちいち祝っていたらきりがない。僕はプレゼントは年末に一括払いと決めている。そんな小気味好い僕の習慣も、奥さんに全く共感を得ていない。こんなことが積み重なって、僕も将来、責められるのだろうか。
 熟年離婚の理由を眺めていくと、僕らの親の世代で“男はこうあるべきだ”と謳われた男性像そのものが次々に否定されていく。親を見習っていたら間違いなく熟年離婚だ。今の世の男は、何を手本に生きていけばいいのか。仕事休んで出産に立ち会い、育児休暇をとって記念日を片っ端から祝うのか。
「なんか男性ゲストが良い人に見えてきたよ」最後にはアッコさんも、日本男児にエールを送る。
「おいっ、青年。くよくよするなよ」
 僕はその時、なぜか寅さんの顔を思い浮かべた。
 まったく今時の“男はつらいよ”。

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