週刊新潮 六月一日号
「石原良純の楽屋の窓
」
152回
鬼のクイズ教官
『クイズグランプリ 2006』(BSフジ・五月二十八日夜放送)は、昔懐かしい『クイズグランプリ』の復刻版だ。
午後七時半からの十五分間の番組は、夕食後のひとときを、家族で楽しめるクイズ番組だった。毎週月曜から金曜までの帯放送で、月曜から木曜の優勝者が、金曜日の晩にグランドチャンピオンの座を争った。
番組の内容はいたってシンプルだ。進行役に徹した、俳優の小泉博さんが、渋い声で四人の解答者を紹介すれば、あとは余計なおしゃべりは一切ない。
難易度順に十点から五十点の得点がついた問題が、六つのジャンルに分かれている。“文学・歴史の10”と、最初の問題を小泉さんが指定すると、優勝者が決まるまで、クイズは一気に突っ走る。
収録前、往年のVTRを拝見したが、誰ひとりニコリともしない緊迫感と、出題と解答が繰り返されるスピードに驚いた。
誰かがボケてツッコんで、笑いが起こる。クイズそっち退けで話がはずみ、会場は大爆笑の渦……。今時の甘っちょろいクイズ番組と、誰もが他人より一歩先を目指した高度成長期のクイズ番組ではわけが違うのだ。頼りになるのは自分だけ。持てる知力、体力、気力を振り絞り、出場者は真剣にクイズに挑んでいた。
たしかに、お茶の間でテレビ画面を眺めた子供の僕も、勝負の成り行きを固唾を呑んで見守っていた覚えがある。問題は難しくてさっぱり分からなくとも、解答者がイチかバチか早押しに出たり、分かっていながら他人に答えられてしまったり、勝負の綾が子供にも見てとれた。
だから十五分のバトルが終了すると、解答者と同様にテレビの前の僕もどっと疲れてしまう。
クイズの後は『スター千一夜』。歌謡曲に興味のない僕は、石原家の夜の子供のお楽しみ、レモンとハチミツのお湯わり、通称“甘いブー”を飲んで、さっさと寝床に入ったものだ。
さて、今回の僕は、解答者ではなく司会役。腹の底から低い声を出し、小泉さんばりにシックなスーツでキメてやろうと思ったが、衣裳は番組で用意すると断られた。
当日、控え室に吊り下げられていたのは、なぜか海上保安庁の真っ白な制服。大ヒット上映中の映画『海猿』に乗っかって、“鬼のクイズ教官”というのが僕の役どころらしい。往年の名番組も、今時となれば、バラエティー色が添加されるというわけだ。
だいいち、この日の復刻版は若手アナウンサースペシャル大会。日頃、何かと素頓狂な発言で物議を醸し出すフジテレビ若手アナウンサーが一堂に会してのクイズなのだから、誤答、珍答がゾロリと並ぶのは必至。そこで、鬼のクイズ教官が不可欠なのだ。
怒鳴り飛ばす、叱り飛ばす。大声を出すのは嫌いじゃない僕は、喜んでこの役目をお引き受けした。
初めてのクイズ番組司会者の僕が、不思議に眺めたのが収録前の打ち合わせで渡された問題と答えの一覧表だ。問題を自分の知識と照らし合わせれば、特定のジャンルだけ難しいとか、難易度の順序が逆ではないかとか、出題傾向に疑問が湧いてくる。
クイズ番組で一番難しいのは問題作りだと以前どこかで聞いたことがある。なるほど、問題作りの苦労が一覧表にも表れていた。この日の問題も二転三転、収録当日の朝まで試行錯誤を繰り返したと、ディレクター氏も嘆いていた。
いよいよクイズバトルが始まった。
「株式市場で午前の取引きはゼンバ。では、『後場』は何と読む」
「あとば」
おいおい、いきなりそうくるか。こりゃ、やっぱりバラエティー番組だ。
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