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週刊新潮 八月十日号
「石原良純の楽屋の窓 」
162回
Oh! マイ・スイーツ

僕は最近、空前のスイーツブームを迎えている。
 レストランで、昔懐かしいスイーツとも再会した。『キャンティ』の焼きりんご。
 りんごに火がつくのだろうか。炎を上げたりんごの果汁はどうなるのか。皮は焦げても身はホクホクなのか。子供の僕は、メニューを目を真ん丸くしながら眺めたものだ。
 それでも最後は、焼きりんごに二の足を踏んで、名物のプリンを注文するのは今も昔も変わらない。
 スイーツは、スイーツを呼ぶ。
 一ヵ月間の禁酒はできても、一日一合の節酒の約束は守れないのが僕の性格。一度、スイーツに触手が伸びると歯止めが利かない。
 お昼の『笑っていいとも!』から、夕方の『スーパーニュース』までの空き時間は、広尾にある事務所の近くの『上海園』で五目冷し中華を食べるのが夏の慣わし。この夏は、店の親父がデザートに杏仁豆腐をサービスしてくれるようになった。
 冷し中華の酸っぱさで変形した口を、まろやかな杏仁豆腐の甘さが矯正してくれる。冷し効果の二乗で僕は暑い午後の仕事も、勇躍乗り切れる。
『世界バリバリ☆バリュー』の収録スタジオの前室には、様々なスイーツが豪華に並ぶ。収録前のブリリアントなひとときを前室で過ごす。
 スタッフのお薦めは、高級甘栗。値段はその辺の駅前で売っているものの倍。でも僕は、ここでも、長いおさじで“富良野プリン”を食べる。
『VVV6』のロケでは、井ノ原快彦さんがロケ現場近くのパン屋さんで懐かしい揚げパンを見つけた、と買い込んでくる。
『ごきげんよう』のオープニングの日替りデザート。僕は、小堺一機さんの話も聞かずに、いかにも夏を思わせる桃のショートケーキを頬張った。
『ぴったんこカン・カン』の勝利チームの賞品は番組中にVTRで紹介された表参道の『キルフェボン』のタルト。
 クイズに敗れた僕は、久本雅美さん率いるカンカンチームの面々が、喜々としてタルトをお持ち帰りになるのを呆然と眺めた。
 その時の僕の姿は、余程寂しげだったに違いない。スタジオの出口でニッコリ笑う阿部龍二郎チーフプロデューサーは、タルトの大きな包みを差し出した。
「そんなにスイーツが好きならば、東京の名店を巡ってみれば」と、阿部氏が企画してくれたのが『ドリーム・プレス社』(水曜夜八時)の新コーナー。
 番組は、黒柳徹子社長の下で、安住紳一郎TBSアナが、一人前の放送人となるべく修業を積む趣向。
 新コーナーでは、“社長に涼を楽しんでもらうスイーツ”、“社長の外国人宅へのお土産スイーツ”など、テーマに沿ったスイーツを、安住さんが探しに行く。そのアドバイザー役が、なぜか僕。男二人でケーキ屋さんを渡り歩いて試食する、なんとも珍妙な光景が展開する。
 流石は、世界に名だたる大東京。巡れば、美味しいスイーツは山ほどある。でも、僕が最も感動したのは、富士のお山で食べた板チョコの味。  
 強風の中、かじかむ指で不器用に百円の板チョコの銀紙を破ってガブリ。口いっぱいにチョコの甘味が広がって、唾液と共に胃の中へ転げていけば、胃の粘膜が必死にチョコの養分を吸収し、血液に溶け込んだ栄養は手足の先まで運ばれる。体がほんわか温まる安心感と幸福感は、下界のどんな有名パティシエのスイーツさえも凌駕する。
 結局、僕は散々スイーツを食べて、百円の板チョコに行き着いた。
 やっぱり、僕はスイーツにむいていないのかも。
 うわ〜っ! ベルトの穴が一つきつくなってる。

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