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週刊新潮 九月十四日号
「石原良純の楽屋の窓 」
166回
大殿筋の活躍

出た、二〇四ピン。
 テンフレの第三投はテンピンタップの九本カウント。パンチアウトこそ逃したが、僕は中学三年生以来の二百アップを記録した。
 僕が三日も連続でボウリング場通いをしているのは、『豪腕!コーチング!!』(テレビ東京系・十一日夜放送)でのこと。番組では、各分野の凄腕コーチが受講者に秘伝の技を超短期間で伝授してくれる。
 今回は、誰もが気軽に楽しむボウリングで、遊びの域から一歩踏み出し、純粋なスポーツとして技術向上を目指す試みだ。
 僕のアベレージは百二十五ピン。年に一度のボウリングならば、まずまずといったところだろう。それを
僅か三日のレッスンで五十アップの百七十五にしようというのだ。
 ここ数年は、番組の収録以外でボウリングをすることはない。昨年の引越しの際、番組でいただいたマイボールを捨てたのも悲しい思い出だ。ゴミ捨て場のマイボールが収集車に放り込まれるのを、僕は電柱の陰からそっと見送っていた。
 だいいち、「今日はボウリングやるぞ」と決めて家を出ることはない。僕ら素人のボウリングは、成り行きか、酔った勢いでしか始まらないのだから。結局、家に置いてあるマイボールは、宝の持ち腐れでしかないのだ。
 酔っぱらいがボウリングをすると、友達を失いかねない。
 お酒を飲んでホンワカ気分で投げたボールが、溝に落ちても僕はヘッヘッと笑っている。それを見た友人達も「お前、下手だな」とヘラヘラ笑っている。
 ところが、ガーターが何度も続けば、自分のボウリングの腕前に腹が立ってくる。それ以上に、友達の心ない一言や、他人の不幸を喜ぶ笑顔が許せなくなってくるものだ。
「お前とは、もう二度とボウリングはやらない」
 誰が言い出すでもなく、酔った勢いでボウリング場に足を踏み入れることはなくなった。
 そんな不謹慎なボウリングとは一線を画して、短期集中講座は進んでいる。
 コーチの小野日出朱プロは、一九七三年プロ入りの第五期生。インストラクター歴三十余年で、これまでに数万人を教えたという凄腕コーチだ。 
 レッスンを受けると、“目から鱗”のことばかり。まず、ボールの持ち方からして違っていた。
 親指は伸ばした状態でスポリと穴に入れる。指先を曲げてボールを掴もうとしてはいけない。中指と薬指の指穴は、ボールを二本の指先で持ち上げられるほどぴったりしている。中指と薬指の指先、そして、親指の腹で指穴の内側面を挟むようにしてボールを持つ。
 三十歳で初めて、神和住純さんにテニスを教わった時、ラケットの持ち方から直されたのと、そっくり同じだ。
 スポーツの上達の秘訣は、基本を知ること。基本を知るには、ちゃんと人に習うこと。
 我流では決して上達しないことをボウリングにも素振りがある。まずは、頭に載せたタオルが落ちないように、シャドーボウリングでフォームを矯正する。
「なるほど」
 持ち方、立ち方、投げ方の一つ一つが、唸ることばかり。
 なかでも一番の新発見は、翌日の筋肉痛。右手や右腕が痛くなると思っていたが大間違い。正しいフォームを支えるのは、しっかりとした下半身。一番活躍するのは、お尻の左の筋肉だと知った。
 さて最終日は、一ゲームぶっつけ本番の一発勝負。
 本番でも二百アップしたら、僕はムチャムチャ格好いいかも。

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