週刊新潮 四月十二日号
「石原良純の楽屋の窓
」
195回
レミーマルタン
Negiccoは、『JA全農にいがた』の特産品”やわ肌ねぎっ娘”をPRするグループ。りんご姫.は、地元青森を中心に活躍するアイドルユニット。ピュアロマンスは、秋葉原発、”ヲタ男”のアイドルなのだとか。そして、ミスキャンパスにレースクイーン。
可憐な乙女達に囲まれて司会者の僕が御満悦なのは、『ザ?クイズマンショー』(テレビ朝日)でのこと。
今すぐ役立つ情報をクイズ形式で送るこの番組、通常の土曜夕方の放送を飛び出して、十一日夜にスペシャル版を放送する。
今回のテーマは、”芸能人”。芸能人御用達グルメに、ナイトスポット、お薦めの美容術に、次世代を担うネオアイドルの紹介まで一挙大公開する。
だが、芸能人の深夜の定番グルメが、ラーメン、お好み焼と言われても、僕には合点がいかない。芸能人の夜のおともといえば、何はなくともレミーマルタンでしょう。石原裕次郎しかり、水原弘しかり、大卒の初任給が数万円だった時代に一本数万円のボトルを夜毎、グビグビ飲み干してこそ芸能人というものだ。
二十数年前、僕が門を叩いた石原軍団の夕べには、未だレミーの世界が残っていた。
地方ロケの夜、俳優部が集合する渡哲也さんの部屋には、必ずサラのレミーのボトルが用意されていた。お酒の支度は最年少の僕の役目。先輩諸氏の目の前でモタモタできない。手際良くキャップの封を切りコルクをひねる。キュッキュッ、ポンと栓が抜けると芳醇な香りが辺りに漂うが、そんな余韻を僕が楽しんでいられようはずもない。舘ひろしさんに怒鳴られる前に、渡さんから順番に好みの濃さの酒を作る。
ストレートだからといって、ただ酒を注げばいいというものではない。グラスの質によって酒の量はもちろん変わる。バカラのグラスなら少な目に、ビアタンならば多目に酒を注ぐ。どれだけ注いだらおいしそうに見えるか、先輩のお酒は見た目も大事なのだ。
オンザロックや水割りは、アイスバケツの氷の溶け具合を見極めるのがポイントだ。グラスを口元に運んだ時、グラスの酒に溶け残った氷が寂しく浮かんでいたり、ガラガラと余分な氷が鼻先にぶつかっては、レミーの味を存分に楽しんでいただけない。
そんな酒作りのプロの僕から見れば、最近の若いスタッフは、ロクな水割りも作れない。
ある番組の打ち上げで、大きなグラスに無造作に氷を放り込み、焼酎も水もカバカバッと注ぎ込むだけのAD。一杯飲んだら、おなかがちゃぷんちゃぷんになってしまいそうな水割りを、僕は三度作り直させ、最後は自分で作って飲んだ。焼酎だろうがレミーだろうが、お酒作りに丹精込めろ。
世が世なら「若い衆の管理がなっとらん」と舘さんにブッ飛ばされるところだ。
渡さんの飲み会の席にお好み焼が登場したことも、たしかにあった。
深夜、ロケ先の小さな街で、「お好み焼でも食べたいな」という渡さんの一言に、渡さんの付き人の清さんは真っ暗な人気のない街へ飛び出していった。
酒宴がお開きになりかけた時、ようやく清さんが息を切らしてお好み焼を抱えて部屋に戻ってきた。やっと眠れると思ったのに、そこから長い長いお好み焼の宴が始まった。
お好み焼を調達する人も必死なら、それを食う人も必死、厳しい厳しい芸能人お夜食グルメが存在した。
それにしても今宵はゲストが多い。さすがはスペシャル。でも、スペシャル番組って二時間が相場じゃないの。だけどこの番組は、一時間。それに十一時十五分始まりの深夜枠だ。
いえいえ、いつの日にかゴールデン進出を密かに狙っているのです。
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