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週刊新潮 六月二十一日特大号
「石原良純の楽屋の窓 」
204回
環境刑事リターンズ

 光化学スモッグの元凶は、海を渡ってやって来る中国の大気汚染物質。
 南米ペルー沖の海面温度が下がるラニーニャ現象から、今年の日本の夏は猛暑が予想される。
 ハイリゲンダム”サミットの主要テーマに地球温暖化問題が取り上げられる。
 こんな御時世だからこそ、再び戻ってきたのが『環境刑事2』(フジテレビ”十七日昼放送)。
 お台場8曲署の捜査一係長”ボス”を務めるのは、もちろんこの僕だ。裕次郎叔父が演じたところの、七曲署の”ボス”をパクるのは、昨年に続いて二度目のこと。もう恥ずかしがってばかりはいられない。
 事件を告げる黒電話が鳴れば、受話器をバシッと取り上げ、ギロッと鋭い視線で宙を睨む。捜査に出た若い刑事を心配し、フッと寂しい後ろ姿で窓辺に佇み、ブラインドを指で押し広げ夕日の街に想いをはせる。どこか懐かしい”昭和の刑事ドラマ”をどっぷり再現した。
 そんな刑事部屋シーンは、あくまでも番組のご愛嬌。取材内容は、『地球環境大賞』にまつわる、至ってまじめで有益なものばかりだ。
”産業の発展と地球環境との共生”を実践する企業や自治体、市民グループ等を顕彰する『地球環境大賞』。今年の大賞は、ライオンが受賞している。
 ライオンは、衣料用洗剤の洗浄成分を石油原料から植物原料に切り替えることで、洗濯で家庭から排出されるCO2量を四十七%(一九九〇年比)削減することに成功した。
『環境大臣賞』のアサヒビールは、沖縄でバイオマスエタノールの製造、利用研究を進めている。『経済産業大臣賞』の住友ゴムは、タイヤの主原料である石油系の合成ゴムに代わり、植物由来の天然ゴムを採用した。また、『国土交通大臣賞』の日本郵船は、船舶の運航中に機関室内で発生する海洋汚染物質を飛躍的に削減するシステムを考案し、効果を上げている。
 元鉄道小僧の僕の興味をひいたのは、『文部科学大臣賞』のJR東日本。ディーゼルエンジンによるハイブリッドシステムを搭載した『NEトレイン』(New Energy Train)がこの夏、世界初の営業用ハイブリッド車両として長野と山梨を結ぶ小海線を走る。
 二度の石油危機を経験した日本の産業界、運輸界はエネルギー利用の効率化とともに環境保全に多大な努力を払ってきた。
 その一方で、まだまだ意識が低いと言われるのが民生部門。しかし、市民レベルでも環境に対する関心は確実に高まりつつある。そこで”ボス”は、今や日本一の環境都市といわれる熊本県水俣市へと向った。
 環境首都コンテストでは、行政だけでなく市民との協働によって環境保全と経済活動が両立する街づくりを競う。水俣市は昨年度は第二位に甘んじたが、〇四年、〇五年度には二連覇を達成している。
 市内のあるお宅を訪ねると、勝手口にはズラリとゴミ箱が並ぶ。水俣市のゴミ収集は二十二品目にも分別するのだという。ゴミ分別には大層な手間がかかるが、市民一人ひとりの努力が日本一の環境都市をつくり上げたわけだ。
 海辺に出ると初夏の陽射しに不知火海がキラキラと輝いていた。しかし、その海は半世紀前、水俣病の舞台となった海でもある。
 取材の最後に漁師さんと共に漁に出た。自らも病魔に苦しんだ当時のことを、身をふりしぼるように語ってくれた老漁師さん。でも今は、再生した水俣の海で息子と孫と三代で網を曳いている。不幸な出来事を克服したことが水俣市民の環境保全に対する強い思いに繋がっていることを知った。
 漁港の岸壁で獲りたての生シラスでビールをキュッ。いいんです。ボスは酒好きと決まっているのだから。

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