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週刊新潮 九月二十七日号
「石原良純の楽屋の窓 」
217回
この夏の”ホンマでっか”

『さんま”福澤のホンマでっか!ニュース』(フジテレビ系”二十一日夜)は、この夏のニュースをランキングで振り返る。
 さらに、その道に精通した十四人の評論家が、他では知り得ない”ホンマでっか情報”を交えてニュースを解説してくれる。時には、「なるほど」と唸り、時には、「ホンマでっか」と首を捻り、時には、評論家同士が言い争うのを眺め呆れる至って御気楽なニュースバラエティ番組だ。
 気象予報士の僕にとって、この夏のトピックスと言えば、やはり『記録的猛暑』。しかし、僕が忍び寄る地球温暖化の影を感じるのは、七十四年ぶりに更新された日本最高気温四〇・九度だけではない。
『相次ぐ値上げ』では、世界のエネルギー事情による、ガソリン価格の高騰や、バイオ燃料の需要増加によるマヨネーズや果汁の値上がりをあつかっている。エネルギーと地球環境保全は、今後、より深刻な問題となる。
 今は、”たかだか十円の値上げ”とたかをくくっている僕らも、この問題が決して一過性ではなく、近い将来大きな負担を強いられることを覚悟しておかねばならない。
『新潟県中越沖地震』も、日本のエネルギー問題を露呈した。原子力発電所の安全性は、もちろん重要ではあるが、原子力発電を全面否定できるのか。原子力に代わるエネルギーをどこから得るのだろうか。猛暑の都会の電力はパンク寸前だった。もし、電力供給が破綻したならば、どんな事態を引きおこすのか、真剣に論議する必要がある。
 そんな、殺伐としたニュースに比べれば、我が家の”ホンマでっかニュース”は可愛いものだ。
 夏休みに海水浴へ出かけてクラゲに刺された。それも遊泳中ではなく、波打ち際で子供と砂山を造っていた時のこと。小波に乗ってやって来たクラゲの足が僕の左手を撫でて、水ぶくれの列が日焼けした肌にくっきり残った。
 実家の番犬のシェパードが、代がわりしていたのにも驚いた。フリードリッヒは、十二歳で永眠し、生後三カ月のシュワルツがやって来た。厳めしい名前は、父親の趣味。もちろん、散歩はおろか、犬の世話は一切しない。
 三年ぶりの夏休みは、長男”良将の意向を汲んで電車見学に名古屋へ一泊旅行。
駅前に聳える高層ホテルに宿泊すれば、暑い街へ繰り出さなくても、涼しい部屋から、名古屋駅に発着する無数の列車を俯瞰できる。なかでも良将のお気に入りは、黒い排気を上げながらチョコマカ走る、快速みえ。二両編成のディーゼル列車に魅せられて、我が家のプラレールには、二両編成がやたらと増えた。
 長女・舞子のお目当ては、名古屋港水族館のペンギン。僕が以前ロケで出かけた時、大水槽ではペンギンが次から次へと水に飛び込んで泳ぎ廻っては氷の上へ跳ね上がっていた。
 ところが、この夏の酷暑のせいか、ペンギンは、ボーッと氷の上に立ったまま。動きが鈍いペンギンを前に、舞子は、ムッと口を結んで話が違うと僕をギロリと睨んだ。
 涼を求めて山中湖にも出かけた。朝の散歩でムズがる良将の背中には、大きなカブトムシがとまっていた。せっかく用意したムシ捕り網も出る幕なく、夏の昆虫採集は大成功で終了した。
 ところが、一大事は夏の終わりにやってきた。良将が、幼稚園でウイルスをもらってきたため、家族揃って手足口病を発症した。妻も、舞子も、良将同様に手足に発疹、口に口内炎で苦しむ。幸い僕だけが、今のところセーフ。
 しかし、世の中は恐ろしい。ふと見れば、傍らのテレビ画面に”安倍総理、辞意表明”のテロップが流れているではないか。これぞ正しく”ホンマでっか”。

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