週刊新潮 十一月一日号
「石原良純の楽屋の窓
」
222回
もしかして、私だけ
我が家では当たり前と思っている常識が、世間に通用するかどうかを検証するのが新番組『お茶の間の真実・もしかして私だけ!?』(テレビ東京系)だ。
長嶋一茂さんと僕という異色のコンビで司会を務めるこの番組は、今年の春にスペシャル版が放送されたが、この秋からは、月曜夜九時のレギュラー番組となった。
「私は、バスタオルを一カ月間、洗わずに使う」、と我が家の常識を披露するゲストの論理によれば、「風呂で洗って奇麗になった体を拭くのだから、タオルは汚れない。ちゃんと干しておけば衛生面に何の支障もない」、というのだ。
この話を聞いたスタジオの皆は、薄汚れ異臭さえ放ちそうなタオルを想像しドン引き。ゲストを汚いタオルを見るように遠目に眺めていた。
スタジオのゲストと全国一万人のアンケートの中で多勢を占めたのは、毎日洗う派だった。
でも、洗濯すれば水も使うし電気も使う。エコロジーの観点からもよろしくない。清潔好きが高じた日本人の悪癖と僕には思える。
そんな僕は、三日で洗う派。そりゃ、真夏に一日何度も使って湿っぽくなったタオルは換えるが、一年平均してみれば三日に一度の洗濯でタオルは充分。
ゲストの我が家の常識を最終的に判断するのは、司会の一茂さんと僕の役目。二人「せ〜の」で、告白者を指差し、・ヘン・か・普通・と一声で判断を下す。
しかし、判断基準にゲストの皆さんは、不満のようだ。なぜ、世間の常識から逸脱している長嶋家や石原家の人間に、常識非常識を問われなければならないのか、といちゃもんをつけてくる。
そんなことはない。親父が毎日タオルを換える我が家は、至って普通。ただ、親父のタオルの色は、昔も今も青と相場が決まっている。そのせいか気が付けば僕は、青以外の色のタオルを使うクセがついていた。
独り暮らしを始めた僕は、東急ホテルのバスタオルを使っていた覚えがある。
時代劇の撮影で宿泊した京都東急ホテルのタオルは、ちょうどオレンジ色から白に新調されたばかり。大きくて、フカフカしていて、吸水性に優れていた。当時の副支配人にお願いして一枚頂戴したのだが、同じものを渋谷の東急ハンズに買いに行くと、思わぬくらい値が張るのに驚いた。
来年のNHK木曜時代劇『鞍馬天狗』の撮影で、京都東急ホテルを常宿としている。
シングルユースのツイン部屋で、朝晩風呂に入っても二枚のバスタオルのうち一枚しか使わぬように心掛ける。それが小さなエコロジー。でも、タオルをベッドの上に忘れて、濡れた体で雫を垂らしながら部屋を走る姿はどこか情けない。
なんか話がシミシミして来たが、我が家の暮らしぶりは、人が想像するよりも地味で常識的なのだ。
その点、一茂さんの話は豪快だ。あるゲストが「風呂に入る時は浴室の電気を消す」と話すと、一茂さんが大きく頷いた。
そのゲストは、一日の仕事を終えリラックスするために電気を消すそうだ。
だが、一茂さんは違う。浴槽に浸かった一茂さんは、仰向けにお湯の中に沈み込む。息が続かなくなり死への恐怖を感じた時、プワッと水面に顔を上げれば苦しい息づかいの中で生きている実感を噛みしめられるのだそうだ。
その時、浴室の電気が消えていれば、さらに死への恐怖が増す。そして、お湯の中から生還した喜びも増大するのだと力説する。
そんな入浴で疲れがとれると僕には到底思えぬが、一茂さんにとってお風呂は、立派なリフレッシュタイムなのだろう。
こんな二人の新番組、皆さん、どうぞ御覧ください。
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