週刊新潮 十二月六日号
「石原良純の楽屋の窓
」
227回
もう、メリー・クリスマス
三、二、一、点灯!
僕の合図で高さ十五メートルのクリスマスツリーに五万個の発光ダイオードが点灯した。モミの木は、群馬県嬬恋産の根っこ付き。イベント終了後は、故郷に帰すというのも小さなエコロジー。
お台場フジテレビ前の特設ステージを彩るクリスマス恒例のホットファンタジー。そのイルミネーションの点灯式を、なぜか今年は『スーパーニュース』のお天気コーナーが引き受けることに。
無数の光の粒に包まれた画面の僕は、今宵ばかりは星の王子様ばりに光り輝いて見えたに違いない。
クリスマス・イルミネーションの下では、男性が普段より頼もしく、女性がより可憐に見える。そんな夜は、凍えた空気に吐く息が白く立ち昇る。白い息の先に続く夜空に星を探せば、年の瀬のにぎわう街の遥か上空を流れる風の一端が、凍って地上へ落ちてくる。ハラリと舞い降りる小さな雪片が”風花”。
誰もがちょっぴりロマンチックな妄想を抱いても許されるのがクリスマス。
お正月は一年の節目、まじめに年末年始の行事に取り組まないと一年間、寝覚めが悪い。
その点、クリスマスは参加したい人だけが、参加したい分だけ楽しめばいい。僕はクリスマスのそんな無責任さが好きだ。
もちろん、天気予報はクリスマスツリーの下からだが、無責任ではない。僕は正確に、分かり易くをモットーに元気な声で明日のお天気を伝えた。
年に数回、こうしてスタジオを出て中継に出かける。まず、台風や発達した雷雨など、緊迫の映像をライブでお伝えする時。
強風に体を揺すぶられ、目も開けていられない横なぐりの雨。マイクを握る僕も必死ならば、ディレクターもカメラマンも必死だ。ズブ濡れになりながらリハーサルを終え、本番を待つ間に天気が回復してくることがある。人の命や財産に危害を及ぼしかねない大雨が収まるに越したことはないが、中継ロケ隊としては本番まで大雨が降り続いてくれればと思うこともある。
もちろん、僕がいつも言うように台風や大雨の時には外に出ないほうがよい。荒天中継は危険なお仕事。絶対に真似をしないでください。
多くの人に天気予報に興味を持ってもらうには、自然の恐さを見てもらうのと同時に、自然の美しさを見てもらうことだ。
そこで僕らは、桜の季節には花見中継に出る。今春は都心の花が散った後、桜を追ってみちのく路に二度目の花見中継に出た。
秋田県角館は、古い街並と桜並木が融合する東北三大桜名所の一つ。ところが中継当日は、日本海の低気圧に向かってどっと暖かく湿った空気がなだれ込み大荒れの天気。吹き荒れる南風が桜の枝を揺さぶり大粒の雨が容赦なく叩きつけた。
果して、花見中継と大雨中継の両立は、視聴者の皆さんに楽しんでいただけたのだろうか。
フジサンケイクラシックのプロアマ大会の前夜祭会場から天気予報をお伝えするのも恒例だった。プロアマ戦に参加する多くの女優さん俳優さんと共に伝えれば、天気予報もひときわゴージャスになる。人目を引けば天気に興味を持ってくれる人が増えるかも。
しかし一昨年、僕は『笑っていいとも!』の水曜レギュラーに移動、火曜日の前夜祭には出られても水曜日のゴルフには参加できなくなった。ゴルフできないのに河口湖まで出かけるなんて……。ここ三年、前夜祭中継は見送られている。
新丸ビルや表参道ヒルズ、東京に新名所が誕生すると中継に出かける。でも、やっぱり僕ら気象予報士が相手にするのは大自然。この冬は、寒さ堪えて流氷中継に行ってみるか。
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