新潮
TOP
NOW
PROFILE
WORK
MEMORY
JOURNEY
SHINCHO
WEATER
CONTACT

 

 

 

 

 



週刊新潮 十二月十三日号
「石原良純の楽屋の窓 」
228回
打倒、錦野チーム

 カードの山から飛び出すエース。消えて無くなるエース。
 黄色いキューブは、右手、左手、茶碗の中と自由に動き廻り、最後にはみかんに変わる。”チーム良純”の、りえ、ひより、つばさの三人は、二週間の猛特訓で次々とマジックをものに。
「今年は勝てる」と自信を胸に臨んだのは、『志村・所の戦うお正月』(テレビ朝日系・来年一月一日放送)の収録。過去二回、競泳対決と相撲対決で黒星を喫している錦野旦さんチームと、今回はマジックで対決することになった。
 両チームの対決を審査するのは、今回のマジックを監修するMr.マリック。テーブルマジックとステージマジックの二演目で技を競い、勝者が決められる。
 カードやコインを使い、観客と身近な距離で人々を驚かすテーブルマジック。
 装置を使い派手なパフォーマンスで人々を魅了するステージマジック。
「どちらかに片寄らず、両者の技を兼ね備えてこそ本物のマジシャン」という、マリックさんの意向が対決に反映される。
”チーム良純”のステージマジックは、空中浮遊と瞬間移動と天気予報。”チーム良純”なればこそ、天気予報もマジックのネタになってしまう。
 片や錦野さんチームも、ヒット曲『空に太陽がある限り』をチームカラーの前面に立てている。
 プロのマジシャンの特訓のまず最初は、トランプカードに慣れること。ひたすらカードを切ること、配ることをくり返す。
 マリックさんから頂いたマジック用のカードは、普通のトランプより滑りが良い。マジック用のカードは、三枚のカードが張り合わさっていて真中が少し膨らむように作られている。すると、カードがよく滑り操作し易くなるのだそうだ。
 少しでも長い時間カードに触れていれば、カードさばきは上達する。最初は僕も子供達と同じレベルだったが、ただでさえ器用とは言えない僕が練習を怠れば、皆について行けやしない。僕は、ショーのプロデュース役に専念することにした。
 それにしても、二週間という僅かの間に子供達の上達の著しいこと。本番のステージで、僕は彼らが操るカードにタネも仕掛けも見破れなかった。
 なるほど、道理でカジノのプロディーラーに、アマチュアの僕らは歯が立たないわけだ。奴らは、どこに絵札があるのか全てお見通しなのだ。
 僕の海外ロケの密かな楽しみは、帰国前夜のカジノ通い。決して大金を賭ける訳ではないが、日本では味わえないカジノ特有の雰囲気を楽しみたくて、必ず足を運ぶ。
 先住民探査でジャングルを二週間さまよい歩いた後のマニラのカジノ。夜が白々と明ける頃、気がつけばブラックジャックのテーブルに、客は僕ひとりになっていた。そこから閉店まで、ディーラーと僕とで差しの勝負が続いた。大金が行き来するわけでもない気楽な客に、ディーラーのほうから話しかけてきた。
 聞けば、翌月には日本へ行くのだそうだ。どこへ行くのかと僕が尋ねると、彼の答えは「NAKAMEGURO」と一言。同じ東京でも、僕が暮らす東横線沿線のコアな地名に、思わずのけぞってしまった。
 妙なところで、客とディーラーが意気投合。そこからがおもしろかった。「もう一枚引くだろ」「今度は倍賭けするだろ」とディーラー君が勝手に決めて、三度に二度は勝たせてくれて、そこそこのお土産を持たせてくれた。あの時の彼は、カード全てをお見通しだったのは間違いない。
 いやいや、今回の対決はギャンブルではない。技を競うのは、カードマジックとステージマジック。今回こそは、錦野さんをギャフンと言わせてやる。

<<前号 次号>>
 

<<前号 | 次号>>
 
ページのトップへ