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週刊新潮 十二月二十日号
「石原良純の楽屋の窓 」
229回
ぼくにできること

「故郷を愛する心を強くもちます」
「自然は自分だけのものじゃない」
「皆で4Rを実践しよう」
「エコ活動はできることから」
 子供達は、自分が暮らす街の、空や、海や、川や、森の様子を調べる。海岸や河原へ出かけ実際にゴミ拾いに参加する。日々の暮らしの中で4Rを心掛ける。そして、無理なエコ生活は長続きしないことを身を以て会得している。
 子供達が、大人顔負けのエコ活動の研究成果を発表したのは、『ちゅうでん小学生エコセッション2007』でのこと。
 電力会社主催の子供環境フォーラムでは、愛知県を中心とする中部圏の子供達が、小学校の学級単位で春から続けてきた研究テーマを発表した。
 図表やグラフがずらりと並ぶ硬派なものから、演劇仕立て、歌や踊りを交えた賑やかなものまで、発表の仕方にもそれぞれ工夫が凝らされている。”地球環境問題”などと大人が大上段に構えてしまうことを、子供達は半ば遊び感覚で学んできたようだ。
 それでいて、子供達の口からは”4R”などという専門用語が普通に飛び出してくる。
 ひと昔前までは、製品を何度も繰り返し使うリユース、資源を無駄使いしないリデュース、製品を再利用するリサイクルで”3R”。今はそこにスーパーの袋などいらない物はもらわないリフューズが加わって”4R”。環境問題にちょっとうるさい人でも、なかなか使えない言葉だ。
 近くの小川の魚が減った。校庭の銀杏の木が、この冬はなかなか色づかない。身の廻りのことから始まって子供達の興味は地球の環境へと広がってゆく。最後には、『不都合な真実』のゴア前米副大統領ばりに次々と挙げられていく数字やグラフには、僕も今度どこかの講演で使わせてもらおうか、と思うようなおもしろいものも登場する。
 そんな彼らの不安は、自分がやっても何も変わらないかもしれないということ。それは、地球環境問題に携わる誰もが持つ想いだ。
 町内会のゴミ捨てひとつをとっても、分別する人、しない人。手間暇かけて自分だけが一生懸命にやっても何の効果もないのでは、と誰もが一度は考える。
 それは、なにも個人レベルの問題だけではない。国と国との間にも、地球環境問題に対する認識や行動に大きな違いがある。
 十二月三日から始まった、国連気候変動枠組み条約第十三回締約国会議(COP13)。京都議定書後の地球温暖化対策を話し合う重要な会議ではあるが、その先行きは全くみえない。
 各国の立場は大きく違う。世界最大のCO2排出国でありながら、議定書から離脱しているアメリカ。
 すでに進行中の温暖化の原因は先進国にあるのだから、そのツケを払うのは、当然に先進国だ、という途上国。
 そしてまた、途上国と一口にいっても、世界第二位の中国や五位のインドのような大排出国もあれば、韓国やブラジルのような新興経済国もある。
 その一方、施策を巡らせる余裕など到底ない貧しい国や、すでに温暖化の深刻な影響を受けている島国。
 しかし、世界の排出量の半分を占める途上国の協力なしに問題解決は進まない。思惑が複雑に絡み合い議論は紆余曲折が予想される。
 そんな頼りにならない大人達を尻目に、エコセッションの最後に小学生の子供達は、彼らなりの結論を大きな声で唱和した。
「地球の未来のために、今わたしたちができること、始めよう」
 なんだかなぁ。子供達のほうが、よっぽどしっかりしている。僕は、とにかく電気だけはちゃんと消して楽屋をあとにした。

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