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週刊新潮 一月二十四日号
「石原良純の楽屋の窓 」
233回
臨時家族総会

 親父が、「早くしろ、早くしろ」、と急かすものだから、折角の集合写真がブレブレになってしまった。
 親父の誕生日でもないのに家族が集まったのは、正月休みのこと。
 風雲急を告げる衆参ねじれ国会、いつ何時、選挙にもなりかねない。長男・伸晃代議士と三男・宏高代議士は、東京を離れられなかったのだとか。
 親父は、風邪のダルさがとれず、年末年始の海外旅行をキャンセルした。可哀想なのは、兄貴の長女・さっちゃんだ。海外旅行にただ一人随行し、ジジ、ババのめんどうをみようと張り切っていたのに、出発前々日にドタキャンされたのだから。
 思えば、僕が新婚だった年末年始にも、同じような事があった。親父にぜひ一緒に旅行へ出ようと懇願され、僕ら夫婦は無理やり休みを作ったが、やっぱり出発前々日にドタキャン。それでも僕らは二人で旅行に出たが、高校生のさっちゃんを一人で海外へ出すわけにはいかない。
 そんな可哀想な佐知子へ良純叔父からのアドバイスは、”決して驚かない”こと。海外旅行のドタキャンくらいで驚いていては、あのお爺さんとは付き合っていけないのだ。
 大晦日に温泉旅館から緊急撤退なんてこともあった。二日の逗留ですっかり温泉に飽きてしまった親父が、突然、家に帰ると言い出した。子供の僕らは、ゲームコーナーと離れ難いぐらいのものだが、正月料理はすっかり旅館でと思っていた母親は大慌てだった。
 そのくせ正月二日には、親父は家に居ることにも飽きてくる。ヨットのクルーをかき集めると、「三が日ぐらいは、家族は家に居るように」と言い残し、自分はとっとと海へ出て行った。
 親父に遊びや旅行に誘われた時には、二次予定を立てておこう。ゴルフに出かける朝の突然中止も珍しくない。そんな時は、サッとテニスに気持を切り換えてコートへ出かけよう。
 佐知子は高校テニス部。この正月休みは海外へ行きそびれたけれど、親父とペアを組んで近所の高齢者ペアをやっつけて廻ったとか。今度は、神和住純プロ仕込みの良純叔父とシングルスやろうぜ。
 新年会に、四男・延啓家族は欠席だった。延啓は、一月十七日からニューヨークで今注目のアート・スポット、チェルシーにあるI-20ギャラリーで個展『DEER MAN』を開く。その準備で十一月から向こうへ行ったきりなのだそうだ。
 兄弟がどこで何をしているのか、案外と気付かない。アメリカで個展とは延啓クンも頑張っているようだ。
 中華レストランに皆が顔を揃えたところで、親父とうるさい子供達をどう遠退けるか、席次でひと悶着。乾杯のシャンパンが冷えていないと、もうひと悶着。
「シャンパンなんて腹がゲプゲプするだけだ」
 怒り出した親父は、生ビールを注文する。でも僕は、シャンパンが冷えるのをジッと待つ。食事が始まると、親父はマオタイ酒、兄貴は老酒、と思い思いに酒を飲む。でも僕は、シャンパンを飲み続ける。
 二本目のボトルがポンと軽く音を立てて開いたところで、「まだシャンパン、飲んでいるのか」、と皆の視線が集まった。それでも僕はシャンパンを飲む。唇をピリッと、喉をカラッと刺激して、食道をザワザワと転げ落ち、胃の中でゴボゴボと泡立つ。そんな騒がしさが、めでたいお正月にはふさわしい。
 ところが、二本目のドンペリがロゼと誰かが気付いた途端、ボトルは僕の手から持ち去られてしまった。ロゼならばゲプゲプしても、飲んでみる。石原家の人間は、みなさん大の酒好きなのだ。
 みなが大酔っ払い、ピンボケ写真で、新年の宴はお開きとなった。

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