週刊新潮 二月二十八日号
「石原良純の楽屋の窓
」
238回
サぁー!世界卓球開幕
ラケットがボールを打ち付ける音は甲高く、金属音のようにも聞こえる。台に叩き付けられた白球は、思いも寄らぬ方向へバウンドする。時速百キロ、一秒間に百八十回転するという白球が、ネット越しに数メートルで対峙する選手間を行き交うラリーの応酬は、まるで格闘技の様相を呈する。
僕が東京体育館に観戦に出かけたのは、全日本卓球選手権の最終日。
二月二十四日から始まる『世界卓球2008中国』の事前取材でのこと。中国・広州で繰り広げられる熱戦は、テレビ東京系列で一週間連続中継され、僕は今年もメインキャスターを務める。
一九二六年に第一回大会がロンドンで開催された世界卓球は、世界チャンピオンを決める権威ある大会。個人戦と国別団体戦が隔年交互に行われ、今年は団体戦で栄冠を争う。
代表チームには男女各五人が選出され、試合はそのうち三人で戦われる。先に三勝した国が勝ち。三試合で勝負が決まらない時の第四試合は、第一試合の選手対第二試合の選手。対戦相手を変えて行われるのだ。
カウント二対二の最終戦は、第二試合の選手対第一試合の選手で雌雄を決する。
代表選手の中から誰を実戦に投入するか。自国のエースを何試合目に登場させるか。対戦相手国の戦力を眺め、チームオーダーを組む監督の采配も、勝負のキーポイントとなる。
試合は、十一点制の五ゲームマッチ。三ゲーム先取。フルゲームにもつれ込むと、おおよそ四十分の試合で、各々一回だけ一分間のタイムアウトが取れる。試合のリズムを変えたい時、どのタイミングでタイムを取るか。張りつめた空気の試合会場に身を置くと、そんな監督の重要な役目が理解できる。
大会に参加する百三十を超える国や地域の中から、まず世界ランキング上位の二十四カ国が四つのグループに分けられる。
六カ国が総当たりのリーグ戦で、グループ内の上位三チームが決勝トーナメントに進出する。
グループ一位で通過すれば、トーナメント一回戦はシードとなり、メダル獲得のチャンスは大きい。
日本女子は、世界ランキング四位。韓国、オランダなどと共にグループD。一位通過の可能性がある。
もちろん、日本のエースは、福原愛選手。僕が出かけた全日本選手権では、まさかのベスト十六敗退(シングルス)。最終日にその姿を見ることはなかったが、あくまで彼女は世界標準。世界が相手となれば、日本選手で彼女の右に出る者はない。
選手団結成式で会った愛ちゃんは、聞かれた質問にはいつものように一つ一つまじめに答える。時折、冗談を交えて緊張気味のチームメイトを笑わせたりする。その姿は、頼もしい日本のチームリーダーだった。
そして今大会のもう一つの期待が、日本男子チームの活躍。
男子代表チームは、昨年のアジア選手権二位など上昇気運。
しかし、ドイツではプロ卓球リーグのブンデスリーガが人気スポーツであるように、ヨーロッパ全域で男子卓球は人気、実力ともに高い。ヨーロッパ勢とどう渡り合うか。そして、王者中国に胸を借りる。
全日本選手権を掌中に収めた水谷隼選手は、弱冠十八歳。二十歳の岸川聖也選手同様、ブンデスリーガに参戦しヨーロッパで研鑽を積んでいる。日本の力が卓球王国日本の復権を狙う。
去年の世界卓球は、クロアチアの首都ザグレブで行われた。ヨーロッパと日本の時差は八時間。試合は真夜中から明け方に放送された。早寝早起きの僕にとっては、正直辛い応援だった。
今回は、お隣中国。元気良く大きな声で応援できる。
皆さん、ご唱和ください、「サぁー!ニッポン!!」
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