週刊新潮 三月六日号
「石原良純の楽屋の窓
」
239回
ツマサキ重心、カカト重心
両腕を地面と水平の九十度に広げて上半身を捻る。両腕を下四十五度に広げてペンギン姿で上半身を捻る。
リラックスした立ち姿から、真っ直ぐ上に爪先立ち。頭を前方に一度、移動させてから爪先立ち。
背中のみぞおちの裏あたりで、壁によりかかる。首の付け根あたりで、壁によりかかる。
体の使い方が前者が楽な人は、ツマサキ重心型。後者が楽な人は、カカト重心型。
自分の重心の位置を知れば、日常生活の中で体に無理な負担をかけて怪我することはない。それが、廣戸聡一氏が提唱する”4スタンス理論”。
氏は二十五年間、整体師として人の体をつぶさに眺め、触れ、人の動作と重心の相関関係から、この理論に行きついたという。
自分の重心にあったトレーニングを実践しフォームを作り上げれば、自分の体が持つ本来の力をスポーツ競技にフル活用できる。
例えばゴルフ。ゴルフクラブにカスタムメイドがあるように、スイングにも各々の体にあったカスタムスイングがあるわけだ。
そんな奥義を修得すべく、僕が廣戸さんと共にゴルフ場へ向かったのは『所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ!』(テレビ東京系・金曜夜)でのこと。
遊びの天才、所ジョージさんと共に、学校では教えてくれない世の中の様々な謎を追う課外授業。前回の収録で廣戸さんの話にすっかり夢中になった所さんの希望で、氏は番組に異例の二回連続の登場だ。
僕の今年のゴルフは惨憺たるもの。
たまのゴルフならば、欲をかくこともなく大きくゆったりしたスイングでナイスショット。そんな期待通りに行きはしない。ボールを探して右へ左へコースを駆けずり廻れば、凍える朝っぱらから額に汗が浮かんでくる。
すっかりゴルフ意欲を無くしていた僕は、藁にもすがる思いでゴルフ場へ出かけた。
まずは、重心チェック。先生に手足を押され、チェックを受けた僕は、ツマサキ重心型と判定された。確かに、僕は前に重心がかかり易い、左足下がりのライが得意だ。後ろに重心が残る左足上がりでは、体が回転しにくい。氏の判定に、僕は大きく頷いた。
ほんの数発、僕のドライバーショットを観た氏からのアドバイスはただ一つ、「みぞおちの左側と左の膝頭を結んだ線を回転軸にしてクラブを振る」こと。
ゴルフはまさに重心移動の競技。以前、「重心が、まず左の爪先から右の踵に移って、それから……、重心が8の字を描くのがよい」と聞いたことはあったが、さにあらず。先生に言われた通り、左を軸にボールを打つと、白いボールは真っ直ぐ青空を切り裂いた。
僕の話が信用できない人は、イチロー選手と松井秀喜選手の打撃フォームを思い浮かべてほしい。
ツマサキ型のイチロー選手は、前側にあるスイング軸を壁のように安定させ体を回転させる。一方、カカト型の松井選手は、捕手側の股関節をスイング軸に体を回転する。
僕の体はイチロー型。それをハッキリ認識した僕は、朝イチからナイスショットと決まっている。こりゃ、ゴルフへ行くのが楽しみだ。
いやいや、その前に『世界卓球2008中国』の日本チームを応援しなければ。
国別団体戦で世界チャンピオンを決める世界選手権は今が佳境。日本チームは、予選リーグを突破して、いよいよこの週末は決勝トーナメントで頂点を目指す。
所さんの番組に参加したのも、元はといえば『世界卓球』の熱戦を紹介するため。番組では、長さ一メートル、重さ十五キロの特製ラケットまで用意して頂いた。僕は、ツマサキ軸でこいつを振り廻して日本チームを応援する。
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