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週刊新潮 三月十三日号
「石原良純の楽屋の窓 」
240回
”食わず嫌い王”な親子

 アボカドサラダ……粘土を食べているみたいだから。
 白子……食べると妙に元気になって、頭が白子になってしまいそう。
 チキンドリア……フーフーして食べても、掘って出てくるのがライスだなんて許せない。
 以上の三品が、過去の僕の苦手メニューと、その理由。
『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系・木曜夜)の名物コーナー・新”食わず嫌い王決定戦”は、対戦相手の苦手料理を当てるゲーム。
 各々の目の前に並んだ四品の中には、自分の苦手な一品が隠されている。
 まず、相手に気取られぬよう試食する。次に、相手の苦手料理を当てる。
 お皿に伸びる箸の動きがぎこちなくはないか。雄弁に料理のおいしさを語り過ぎてはいないか。作り笑顔で料理を頬張る口元が、どこか歪んではいないか。対戦相手が試食している時には、目の動き一つ、言葉の一片にまで気を配り相手の嘘を見破る。
 とはいえ、こちらも大嫌いな一品を平気な顔して平らげなければならないのだから、必死に芝居する人の不幸を笑ってばかりはいられない。
 嫌いな食材が口元に近づくと、まず危険な臭いを鼻がキャッチする。無理矢理に口を開けば、頬が不自然に突っ張る。食材が舌に触れた瞬間に、なるべく早く危険物質を消化してやろうと口じゅうの唾液腺から一斉に唾液が分泌される。口の中で、大嫌いな食材と過度の唾液が交じり合えば、一段と苦味や酸味が増す。
 そんな危険信号に脳神経が刺激され、目に涙が滲み、喉の奥が開いて、オエーッが出る。こうなってしまったら、自分の苦手な品が、もう相手にバレたも同然だ。
 なにしろ、小学校時代の僕の渾名は”残し男”。こんなオエーッ体験が山ほどある。”食わず嫌い王”とは、正に僕にふさわしい称号かもしれない。
 食わず嫌いの子は、食わず嫌い。ウチの四歳になる長男・良将も、回りの皆が呆れて笑ってしまうほどの偏食だ。
 彼の朝食は、三百六十五日、納豆と大根、人参、豆腐の味噌汁と玄米ごはん。長女の舞子が横から、僕の皿に載る目玉焼きやベーコンに次々と手を出すのとは大違いだ。やっと食べるのが、ひじき、もずく、サツマ芋。彼の食生活は、まるで戦時中のようだ。
 ウチの奥さんは、彼の幼稚園のお弁当作りには四苦八苦。玉子焼きにも、タコ足ソーセージにも見向きもしないのだから。そんな彼の一番のお気に入りは、焼きそば。でも、具の肉だけ奇麗に残して帰ってくる。
 偏食児童の気持が身を以て理解できる僕は、そんな良将を強く叱ることはできない。好き嫌いが多くても、僕は背もちゃんと伸び、元気に暮らしている。それに酒を飲む年頃になれば、おのずと食のバラエティーは広がってゆく。僕は、自分の体験を元に、良将の偏食に高を括っていた。
 ところが先日、幼児に広がる味覚障害の話を聞いて驚いた。甘味、塩味、酸味、苦味を認識できない子が、幼稚園児の半数にも達しているというのだ。
 動物は、味を正しく認識できなければ、自分の個体維持に必要な栄養素を摂取できなくなる。栄養不足は健康な体を損なうのはもちろん、脳のバランスを崩し精神不安定をもたらす。
 その原因の全てが、幼児を含めた現代人の偏った食生活にあるというのだ。
 子供の食わず嫌いは、親の責任。子供の食べ物に対する恐怖心は、親が取り除いてやらねばならないとは、僕にはとても耳の痛い話だった。
 良将、肉を食え、肉を。お父さんだって我慢して、大嫌いな○○を食べたのだから。
 ○○の正解は、番組で御覧ください。

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