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週刊新潮 四月三日号
「石原良純の楽屋の窓 」
243回
気候チャンピオン

 福山での講演を終えて東京へ戻る広島空港でのこと。
 最終搭乗案内のアナウンスに急かされて、ボーディング・ブリッジの緩いスロープを早足に下っていた僕は、大きなガラス窓に広がる夕焼け空の美しさに足を止めた。ちょうど右側の滑走路の先端に、烏骨鶏の玉子の黄身のようなオレンジ色の夕日が浮かんでいた。
 夕焼け空は、空一面が真っ赤というわけではない。地球の大気が白色の太陽光にプリズムの役目を果たすので、夕日が輝く地平線あたりの空は赤くても、高度が少し上がるにつれて、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫と、空は美しいグラデーションに彩られる。
 再び歩き始めようとした僕は、左側の滑走路の先にも右側と同じオレンジ色の太陽が浮かんでいるのを発見した。ボーディング・ブリッジに佇む僕は、確かに左右二つの夕日に挟まれていた。
 僕は、頭の中に地図を思い浮かべ、自分の居場所をシミュレーションする。どこにいても、自分の位置と、どちらが北か方位を特定できるのが、カーナビいらずの僕の特技だ。
 広島県を東西に走る山陽道。空港は、インターチェンジからクネクネと山道を登り切った台地の上にある。滑走路は、地中を走る高速道路とほぼ平行、東西方向に敷設されている。空港ターミナルは、滑走路の北側にあるから、ボーディング・ブリッジは南向き。となれば、飛行機に向かって右が西、左が東。夕日は西の空だから、左側に浮かぶ太陽は偽物だ。
 なんの事はない、左の夕日はボーディング・ブリッジのガラス窓に、夕日が反射して映っているだけのこと。僕の横を擦り抜けた搭乗客の頭が影を作ると、一瞬、左の夕日は消えて無くなった。
 こんな子供騙しの出来事でも、綺麗な空を見つけた時には、日頃から携帯しているビデオカメラを廻すことにしている。
『FNNスーパーニュース』(フジテレビ)のお天気コーナーの僕の持ち時間は、二分四十五秒。予報原稿を読むのに、約一分かかる。前半の二分弱では、空に興味を持ってもらえそうな、空にまつわる楽しい話題を提供する。それには、僕が見た空模様を、そのままお見せして解説するのが、いちばん分かりやすい。
『気候チャンピオン』は、子供たちに、子供たちの目線で身近に感じる気候変動を取材してもらい、一般の人々にその実態を伝える映像作品を募るイベント。
 英国の環境”食糧”農村地域省が二〇〇六年に始めた催しである。
 今年は、英国の公的な国際文化交流機関”ブリティッシュ・カウンシル”が、世界十三カ国で『気候チャンピオン』を募集した。
 日本でも数多くの映像作品が応募され、その中から優秀作品の十名の小中高生が、日本代表として選出された。
 うち三名の高校生は、現在ロンドンで開催中の十二カ国の代表との会議に派遣されている。そして、英国首相官邸や環境大臣を訪問する。
 さらに、五月二十二日からは、『子ども環境サミットin KOBE』を催し、同時期に開催されるG8環境大臣会合への提言を行うのだそうだ。
 僕は『気候チャンピオン』の特別応援団長として、先日、記者会見に同席した。
 小学校五年生から高校三年生まで十名の十作品は、どれも力作ばかり。各々の視点で自分の暮らす街の環境と問題点をビデオ作品にまとめていた。なかには、「子供たちにも分かり易いように」とアニメを駆使したものもある。
 それにひきかえ僕の迷作は、安藤優子さんに「良純さん、太陽が二つ見えるなんて、疲れているのね」と鼻で笑われる始末。僕も次は、”地球の今”に迫る力作を撮ってやる。

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