新潮
TOP
NOW
PROFILE
WORK
MEMORY
JOURNEY
SHINCHO
WEATER
CONTACT

 

 

 

 

 



週刊新潮 五月十五日
「石原良純の楽屋の窓 」
248回
HOW MUCH

「石原良純さんの『キリマンジャロ』。まずは、一万円から」
 島田紳助さんの掛け声で、僕の作品のオークションが始まった。
”100枚の絵でつなぐ! カンボジア学校建設プロジェクト”は、『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系・日曜夜)の特別企画。
 戦火が収まっても彼の地の人々の暮らしはまだまだ貧しい。子供達が通う小学校すらない。ならば、一肌脱いでやろう。それも、ただ寄付金を集めるのではなく、自分達の手で出来ることを何かやろう。
 そこで、絵を描いて、その作品をオークションに掛けて、学校の建設資金を調達することにしよう。
 そんな紳助さんの提案に、僕もイキオイ手を挙げてしまい、三十年ぶりに絵筆を手にしたことは、一カ月程前のこの『楽屋の窓』でお話ししたとおり。
 チャリティーオークションは、四月二十七日に行われた。今回は、企画の前半戦ということで四十七人、四十七作品が出品された。
 もちろん、言い出しっぺの紳助さんの作品もある。青空の下、遠くの緑の森まで延々と続くひまわり畑。黄色い絨毯には一筋の径があり、三人の子供が駆けて行く……。二人からちょっと遅れた後ろの一人が紳助さん自身なのだそうだ。
 萩本欽一さんは、カンボジアのジャングルの小径を水墨画で描く。同じアングルの絵を同時進行で何枚も並べて描き、一筆ごとに上手くいったと思える作品だけに筆を続けて仕上げてゆく。せっかく完成しても、改めて眺めて納得できないと、一からやり直し。二カ月間、筆を手に格闘し続けたという。
 確かに、次々と作品が紹介されてゆくと技術の差は歴然と現れる。作品にかけた布が取り除かれた瞬間、「あれっ、小学生の作品」と思ってしまうものもある。それでも、その絵を眺めるうちに、絵の上手、下手など関係なく、全ての作品から、「何とか力になろう」という思いが伝わってくる。”絵は口ほどにものを言う”ことを再認識させられた。
 僕が驚いたのは、この番組レギュラーの菊地幸夫弁護士の作品。
 氏は、絵に関しては全くの素人。それでも依頼を受けて、毎日、毎日、愛犬をモデルにデッサンを続けたという。氏の愛犬は、子供にせがまれて飼いはじめた保健所に保護されていた捨て犬。子供に命の尊さを教えた愛犬の表情には、菊地さん一家の愛が溢れている。出品された鉛筆デッサン画には、氏の人柄が滲み出ていた。
 どうにも絵が苦手というX JAPANのYOSHIKIさんは、直筆の楽譜。ファンにとっては、二度と手に入れる機会のない垂涎の的だ。
 多くの漫画家から寄せられた人気キャラクターのデザイン画も、このオークションでしか手に入らない逸品ばかり。
 子供達にやさしく微笑むちばてつやさんの『あしたのジョー』の矢吹丈や、原哲夫さんの『北斗の拳』のケンシロウは、本編ではありえない。
 そんなお宝を目の前に僕ら出品者と同様、オークションに参加するバイヤーの皆さんも超真面目。四月上旬に開かれた汐留の日本テレビのギャラリーの展示会で作品を選りすぐり、購入意欲満々の人達ばかり。いつものバラエティー番組の観客のように、紳助さんが軽妙なトークで場を盛り上げても笑い声は上がらない。
 出品者の思い、そして、その思いの籠った作品が発する熱気。企画の趣旨に賛同しオークションに臨むバイヤーの思い。熱い思いがぶつかり合ってスタジオは異様な興奮に包まれていた。
 果して、僕の絵を買ってくれる人が現れるのだろうか。オークションの模様は、今週日曜日から三週に亘って放送される。

<<前号 次号>>
 

<<前号 | 次号>>
 
ページのトップへ