週刊新潮 五月二十二日
「石原良純の楽屋の窓
」
249回
今宵は、GO!GO!郷!
赤坂TBS・Aスタジオに再現された、マスターズの十六番ホール・グリーン。ポテトチップのようにうねったグリーンは、タイガー・ウッズのチップ”イン”バーディーなど、数々のミラクルシーンを生んだ。
そのグリーンで僕が、郷ひろみさんとパター対決をすることになったのは、『うたばん』(十五日夜放送)でのこと。
でも、なんで僕が『うたばん』なのか。『うたばん』は歌番組だろうに。
今年の正月、悪名高い『中井正広のブラックバラエティ』(日本テレビ系日曜夜)のスタッフにだまくらかされて、インリンさんと『銀座の恋の物語』をデュエットするハメになったのは一生の名折れ。
我が家では、『ブラバラ』には出ていないことになっている。僕は放映時間に決してテレビの前には座らない。もし、どこかで画面が目に入ってしまったら、目を瞑り耳を塞ぐ。
その『ブラバラ』の司会が『SMAP』の中居正広さんならば、『うたばん』の司会も中居さん。そして、中居さんとペアを組むのが『とんねるず』の石橋貴明さん。
「子供時分、搾取された」と、僕が一方的に被害者意識を持つ五歳上の伸晃兄。僕にはその兄が、巷で言われる佐藤B作さんよりも、ずっと貴さんに似ているように思える。そんな貴さんが、どうにも苦手。番組で御一緒して何か勝負事がある度に、苦杯を嘗めさせられてばかりいる。
だいいち僕が、郷ひろみさんコーナーの特別ゲストというのも頷けない。
僕と郷さんは面識はあるものの、挨拶を交わした程度のこと。もっと歌番組にふさわしい、郷さんと仲の良いゲストがいくらでもいそうなものだ。
それでも僕がノコノコと番組へ出かけていったのは、”生ひろみ郷”を見たかったから。
とあるゴルフのプロアマ戦の前夜祭でのこと。初めて見た郷さんの生うたは迫力満点。声の伸びといい、体のキレといい、”ひろみ郷”は、僕が子供の頃と同様、トップアイドルだった。本物の郷さんと親しくお話しできる機会を逃す手はない。
パター戦では、敗者が勝者に寿司を奢ることになっている。その様子は逐一カメラで中継されて、スタジオにいる貴さんと中居さんにモニターされる。
モニター・ルームの中居さんの指示で、郷さんと僕は文字通りお手々繋いで夜の赤坂の街へ繰り出した。いい歳した男同士が手を繋ぐのも、”ひろみ郷”とならば不思議と絵になる。
街を歩けば郷さんに気づいた女性が、キャーッと声を上げて手を振る。サービス心旺盛な郷さんは、軽く片手を挙げ、そんな女性の一人ひとりに微笑みかけた。それは三十余年間、体に染みついたアイドルの性なのだそうだ。
こんなモテモテ兄貴が実際にいたならば、弟の僕もさぞいい思いが出来るに違いない。今一度、郷さんを頼もしく見上げたりもする。
一方、僕に声をかけてくるのは、いかにも居酒屋帰りのスーツ姿のサラリーマン。「おっ、良純」と禿げおやじに言われれば、僕は学校の同窓生かと、じっくり相手の顔を窺ってしまう。僕の齢ともなれば、かなりの部分の頭髪が失われた友達がいるものだ。その点、郷さんは伸晃兄より二級上なのだそうだが、お肌ツルツルでやたらとお若い。
郷さんは駆け寄る女性がいれば、決して握手を拒むことはない。いつしか、僕がそんな女性達を押し止める役目になっている。熱心に両手を広げ立ちはだかる僕は、傍目にマネージャーと見えたかもしれない。
もちろん、寿司屋では盃を傾け、楽しい一時を過ごしたのは言うまでもない。
さて、どちらが奢り、どちらが奢られたのか。パター勝負の結果は、放送をお楽しみに。
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