新潮
TOP
NOW
PROFILE
WORK
MEMORY
JOURNEY
SHINCHO
WEATER
CONTACT

 

 

 

 

 



週刊新潮 六月二十六日
「石原良純の楽屋の窓 」
254回
掘って、掘って、また掘って

 富士山の裾野、青木ヶ原の樹海にも続く森の一画が、不法投棄の現場だった。細い林道から投げ棄てられたゴミで、小さな沢は埋め尽されていた。
 僕がアルピニストの野口健さん、元巨人の元木大介さん、そして、三十人のボランティア達と富士山麓の清掃作業に当たったのは、日本テレビ『Touch! eco 2008 明日のために…55の挑戦?スペシャル』でのこと。
 環境月間の六月は、テレビ界もエコ特番が目白押し。僕が白いつなぎに長靴を履いて、ひたすらゴミを掘り起こしていた日曜日の裏番組は、三日間連続のNHK環境特番の最終日を迎えていた。
 長丁場の生放送では、自転車を漕いで自家発電したり、食用油の廃油を燃料にして車やバイクを走らせたり、おのずと似た企画が登場する。
 NHKでは子供達が必死にペダルを漕ぐが、民放では三十人のお笑いタレントらsが大騒ぎでペダルを漕ぐ。NHKがBSの生中継で日本各地を巡る中継車を廃油で走らせれば、民放はアイドルタレントが乗るバイクを走らせる。それぞれの局の持ち味を活かして様々なエコロジーを紹介する。
 頭に風車、背中にソーラーパネルを背負って疾走する。大勢がリングに入り乱れプロレスの振動で発電する。まじめにエコを考えているのか疑ってしまう企画も番組には登場する。
 民放のエコ番組は、軽すぎる。NHKのは、重すぎる。エコ番組に対しては、いろいろな御意見があるだろう。でも僕は、どんな形にせよ、今、現実に起っている事実をこうして繰り返し伝えることが重要だと確信している。
 エコや環境問題は、ともすれば目を逸らしたくなる事柄だ。現実を知ったとしても、個人の手には負えない大きな問題。その解決の一端を担おうと立ち上がれば、手間隙、お金がかかっても、なかなか目に見える効果は上がらない。自分が気づかぬうちに、誰かに何とかしてもらいたいというのが人情だ。しかし最早、地球の現実に目を瞑っている時ではない。
 それは、最近話題のレコーディング・ダイエットと同じ。節食することなく、自分が何を食べたか克明に記録することだけで、月に二キロは痩せるというダイエット法。間食していないか。酒を飲み過ぎていないか。自分の食生活を見直せば、メタボなお腹をすっきりできる。
 ダイエットもエコも、まず現実を正しく認識すること。そして次に、自分にできる何かを探し、実際に手を動かせばいい。
 何十年も不法投棄が繰り返されたという現場でスコップをふるえば、テレビ、冷蔵庫、自転車、タイヤ……日々の街の暮らしで見かけるあらゆるものが地中から現れる。
 ガラス片や錆びた釘、有刺鉄線。なかには、液体が入ったままの農薬瓶など危険なものも沢山ある。
 野口健さんが理事を務める富士山の環境保全に立ち上がった『富士山クラブ』の皆さんは、慣れた手つきで作業を進める。
「一度ゴミ拾いに参加したら、また来たくなる。ゴミ回収には不思議な魅力がある」と、皆さん笑っていた。
 なるほど、大きな鉄板を掘り起こしてみたら冷蔵庫だったり、布袋に包まれた無数の乾電池を発見したり、ゴミ回収は宝探しのようでもあった。
 回収したゴミは、『富士山クラブ』の本部に持ち帰り、分別して行政に引き取ってもらう。この日の収穫は、約一・五トン。最後は、ゴミをバックに皆で記念撮影してお別れとなった。
 僕にとってゴミ回収初体験で一番楽しかったのは、帰りに河口湖で食べた焼肉。
 それでもいいのです。まず、参加することに意義がある。

<<前号 次号>>
 

<<前号 | 次号>>
 
ページのトップへ