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週刊新潮 八月十四日
「石原良純の楽屋の窓 」
261回
僕の夏休み

 僕の名古屋の常宿は、名古屋マリオットアソシアホテル。
 僕が駅の真上に聳える高層ホテルの西向きの部屋を希望するのは、名古屋駅を一望できるから。高層ビルのぶ厚い窓ガラスに額を擦りつけて眼下を眺めれば、JR線、名鉄線、近鉄線の線路が延びる。
 テレビ局ならば、日本テレビの汐留局舎がいい。
 十一階の楽屋の窓は、新橋駅に出入りする電車の絶好のビューポイントだ。山手線、京浜東北線、東海道線、そして一番手前には新幹線が走る。色とりどりの列車が右から左、左から右へと次々にやってくる景色は、見飽きることがない。
 地方ロケに出かけたなら、ローカル線を眺める。山あいの踏切でじっと列車が来るのを待っていると、僅か一両編成のディーゼル列車がエンジン音を蹴立てて走り抜ける。
「長いこと待っていて、こんなの」と、待ち時間の長さと列車の短さのギャップも楽しい。
 時には思わぬ再会を果たすこともある。十和田観光電鉄、長野電鉄、豊橋鉄道、熊本電気鉄道。
 日本各地で学生の僕が利用していた東急電鉄の車両が、セカンドライフを送っている。緑色の五〇〇〇系、ステンレスの七二〇〇系。ランドセルを背負った僕がつり革にブラ下がっていた電車が、今も日本中で走っているのが嬉しい。
 列車で移動中の僕は、もちろん居眠りしたりはしない。車窓に流れる景色に目を凝らす。バシっと風圧を受けて対向列車とすれ違えば、時刻表を開いて相手の素性を調べる。
 僕が目的地に到着する時刻に、反対列車はどんな景色の中を走っているのかを想像する。
 そんな僕が出演依頼を受けたのが、『大人の夏休み』(テレビ朝日・十四日朝)。
 夏休みの一日を、どんなことして楽しんでいるのか紹介する気楽な番組。
 岩城滉一さんがスキューバダイビングで、哀川翔さんがフィッシングで、市毛良枝さんがトレッキング。
 で、僕のテーマは”鉄道”。なんか、夏の一日に相応しくないような。
 でも僕は、鉄道ファン。鉄道の魅力を皆さんにお伝えしよう。
 ただし出演にあたって、一つお願いをした。折角のテレビ取材ならば、普段では行けないところに連れて行ってもらいたい。僕の頭に浮かんだのは、お台場のテレビ局帰りの海底トンネルを抜けた道端に、長く連なる新幹線の車両基地。
軌道に敷かれたジャリを踏み締め、レールを踏み締める。そして僕は、朝一番で新大阪から一仕事終えたばかりのN七〇〇系のかものはしノーズに抱きついた。
 頬を寄せて眺めたボディーラインは、遠目には鳥の嘴のようで奇怪に思えるそれよりも、ずっと優雅で優しい。
 もちろん、運転室にも入れてもらった。手狭な運転室内の中央に座席が一つ。窓は三枚で百八十度の視野をカバーする。まるでレーシングカーか、戦闘機のコックピットのようだ。
 大満足の夏休みの一日。でも実は、もう一つ大きな初体験がこの日には隠されていた。それは、長男・良将をロケ現場に同行させてしまったこと。
 だって良将も、どうしても新幹線が見たいって言うものだから。長嶋一茂さんだって、歌のお兄さんに会いに、お子さんを連れて来ていたじゃないか……。
 関係者の皆さん、御迷惑をおかけしたことをお詫びします。
 正直なところ僕は、良将のことが気になって、心底、N七〇〇系を楽しめなかったかも。

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