週刊新潮 九月四日
「石原良純の楽屋の窓
」
263回
ご自愛しよう
テニスやゴルフで、しっかり汗をかいた後の風呂上がり、僕は、まず脱衣所のウォータークーラーの水をガブ飲みする。スポーツの後の生ビールが、格別、旨いわけではない、ただ喉が渇いているだけなのだと、自分に言いきかせながら。
そんな涙ぐましい努力をするのは、健康診断で要観察項目に引っかかった尿酸値を下げるため。三年間のビール排斥運動の甲斐もあって、数値はようやく七点台に回復した。
中性脂肪は、僕の敵ではない。毎年、基準を軽くクリアーしている。もし、数値が危険域に達したなら、朝のジョギングの距離を増やせばいい。長男・良将のラジオ体操には付き合えなくなるが。
僕の一番の問題はコレステロールの値。僕の体内には、善玉クンも悪玉クンもウヨウヨいるようだ。
体質を改善するには、まず食生活と考えてロケ弁当は、肉より魚をチョイスする。収録後の深夜の焼肉も減った。大阪や名古屋へ移動の夜は、車内や機内で食事を済ませ深夜の街へ出かけることも少なくなった。
昨年から実践している週に一度の禁酒は、昨年の記録を大幅に更新する勢いだ。酒を飲まなかった翌朝、カレンダーに黒い星印を付けることが、良将がラジオ体操の赤いスタンプを集める以上の僕の楽しみとなっている。
なにしろ我が家は、体が決して強くない。普段から人一倍、睡眠と食事に気をつけて、年に一度は、健康診断。自分の身は自分で守らねば、何時、何が起こるか分からない。
それでも、「逝く時は、コロっと逝ってちょうだいね。生はんか生き残ると大変よ」とは、妻の言葉。
病気の介護は周りの人も大変だが、なにしろ当人が一番辛い。そんな目に遭わないように、日頃から摂生しろという愛情溢れるアドバイス。
病院の辛いリハビリ現場を疑似体験することになったのは、24時間テレビで放送されるドラマ『みゅうの足パパにあげる』(日本テレビ系・八月三十日夜)でのこと。
松本潤さん演じる主人公・山口隼人は、突然、体の自由が利かなくなる難病に冒される。家族に支えられ、生きる希望を失わず病気に立ち向かう物語。
僕は、マツジュンが入院して来る病院のリハビリ室の先輩患者役。二度の脳梗塞にもめげず、陽気にリハビリに励み、落ち込むマツジュンを励ますという、おいしい役どころ。
原作を読んだという松本クンから、僕の患者像は、原作のイメージ通りだと誉めてもらったが、僕はちょっと心配だ。僕の顔も手足も日焼けで真っ黒だから。
良将と長女の舞子を連れラジオ体操、市民プールを梯子していれば、誰だって黒くなる。おかげで僕の肌は赤銅色で健康そのもの。
せめて夏休み前に出演依頼をしてくれていれば、もっと日焼けに気を遣っていた。プロデューサーはじめ関係各位の皆さん、お仕事はもう少し早目にお声をかけてください。顔はもちろん、パジャマから伸びる手足に白いファンデーションを塗りたくる。でも、無理矢理に白く塗ると死体のように見えてくる。果して僕は、立派な病人に仕上がっていたのだろうか。
松葉杖をつくのも大学三年生の冬、スキー場で酔っ払って乗ったソリで左足を骨折して以来のこと。
右腕の杖に体重をあずけて、一歩一歩ゆっくりと歩みを進める。一日中、リハビリ室で撮影が続くと、だんだん自分が本当の病気のように思えてくる。
助監督に出番を告げられ、ノソノソとカメラの前へ。ほんの数メートルの距離を移動するのが、なんと煩わしいことか。
やっぱり、健康が一番。僕は、今宵もビールをパスする。
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