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週刊新潮 九月十一日
「石原良純の楽屋の窓 」
264回
”はれるん”現わる

 オレンジ色のニコニコ笑顔が眩しいのは、気象庁のマスコットキャラクター”はれるん”クン。顔が太陽、ハムレットのようなハイネックの白い襟は雲を現しているが、青と水色の縦縞のワンピースが雨とは知らなかった。
 はれるんクンと僕が子供達に囲まれているのは、僕が、”一日天気相談所長”を務めた日のこと。
 夏休みの二日間、子供達に気象庁の業務を知ってもらうため、見学デーが開催された。その講演会の講師として、僕は一日所長に任命された。
 お天気相談所と聞いてまず思い当たるのは、絵日記を怠けていた夏休みの終りに、お天気を問い合わせること。事実、夏休み中はこの種の問い合わせが一番多いのだそうだ。
 データだけならば、最近はインターネットで気象庁のホームページから入手できる。でも、相談所に足を運べば、「どんな現象なのか」、「なぜ、起こったのか」、疑問の一つひとつに所員が丁寧に答えてくれる。
 現所長の菊池正氏は、気象大学校の出身。千葉県柏市にある日本唯一の気象大学校は、一学年が僅か十五人という少数精鋭。そのまま気象庁に進み気象業務に携わることが約束される狭き門。お天気界のエリートコースだ。
 菊池氏は、子供の頃から憧れていた予報業務に就くと、自分の大好きなことをしながら給料が貰える、と毎日笑みを浮かべながら天気図を眺めていたという。
 そんなお天気のプロ達に見守られながらの講演は、僕にも大きな刺激となる。テレビでウェザーキャスターを務める僕だってプロの端くれ。空の楽しさを伝えることに関しては、負けてはいられない。大切な夏休みの一日を費やして来場してくれた皆さんのため、気合を入れて四十五分間の講演に臨んだ。
 見て、聞いて、触れて、体験する。当日の会場には様々な趣向が用意されていた。
 青い布で覆われた一画は、ウェザーキャスター体験コーナー。背景を指差すと、モニター画面上でCG合成され、天気図を指差しているように映る。布の皺や汚れを見つけ、CG合成された時の日本列島の大まかな位置を把握するのが、本物のキャスターっぽく見えるコツ。
 お天気相談所には、気象に関することだけではなく、地震や火山といった地象に関する現象についての質問も寄せられる。
 やはり一番多い質問は、「いつ地震は来るのか」というもの。さすがに、これには答えられない、と菊池所長も苦笑いされていた。
 屋外には、最近、何かと話題の”緊急地震速報”を有効活用してもらうため、起震車が用意されていた。
 震源近くで地震の初期微動P波をキャッチし、地震の強い揺れS波が到達する数秒から数十秒前に速報は地震を知らせる。
 起震車の荷台に据え付けられた小さなプレハブの中の僕は、いきなり震度七で揺さぶられ大慌て。緊急地震速報のブザーを聞いて、揺れが始まる前にテーブルの下に潜り込めば、安全というわけだ。
 まずは、テレビなり携帯電話なり、緊急地震速報を得られるツールを用意すること。そして何より、数秒ないし数十秒という極めて短い時間の中で、何をすべきか日頃から考えておくことが重要だ。
 これは気象情報でも同じこと。大雨や洪水警報の精度は年々向上している。情報の受け手である僕らが、どこが危険か、どこへ逃げるか、身の廻りの状況を把握しておかなければ、せっかくの情報も活かされない。
 そういえば、初めは”一日気象庁長官”という話だったような気もするけれど……。いやいや、一日所長を一日楽しく務めさせて頂きました。

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