新潮
TOP
NOW
PROFILE
WORK
MEMORY
JOURNEY
SHINCHO
WEATER
CONTACT

 

 

 

 

 



週刊新潮 十月三十日
「石原良純の楽屋の窓 」
271回
年上の女

 新藤哲夫、四十四歳。港区白金在住。
 小、中、高と付属校で学び、エスカレーター式でなんとなく大学は法学部へ。卒業後は企業に就職するも、弁護士になりたいと親に泣きつき、実家を頼りに二十八歳で司法試験合格。弁護士事務所に所属するが、やる気なく解雇。その後はブラブラしている。空気の読めないタイプで、流されやすい性格。
 ドラマ『SCANDAL』(TBS系・日曜夜)の出演依頼を受けた時、役のプロフィールを読んだ僕は、「ウム」と腕組みしてしまった。
 哲夫さんは、いわゆる”バカボン”。役名の下に、”イメージキャスト・石原良純様”と書いてあるのは、嬉しいような悲しいような。世間の目に僕はどう映っているのだろうか。
『SCANDAL』は、二十代、三十代、四十代、五十代の四人の主婦が共通の友人の結婚式で出会った夜、悪ふざけで男を逆ナンパするゲームをしたことがきっかけで失踪事件に深く巻き込まれてゆくサスペンス。四人の女性が抱える悩みや不満、家族の秘密や過去が物語の展開とともに次々と明らかになってゆく。
 各世代を代表する四人の女性を演じるのは、鈴木京香さん、桃井かおりさん、長谷川京子さん、吹石一恵さん。そして僕は、桃井さん演じる外資系企業の外国人社長に仕える敏腕秘書、新藤たまきの八歳年下のダメ夫というわけだ。
 でも、『GOOD LUCK!!』や『白い巨塔』などヒットドラマを執筆した、井上由美子さんの脚本はイケてる。最初に手渡された物語のシノプシスは、全十回の放送のうち二回で消化してしまった。この先、話がどう展開してゆくのかは、脚本家の頭にしかない。
 毎回、台本を手渡される度に、「誰々と誰々には、こんな過去のいきさつがある」「誰々の家族には、こんな秘密がある」と、演者は驚くことばかり。すでに収録が終っているシーンを思い出し、あの時のあの表情や目線の配りは、物語の設定と合っていたのか心配になることもある。
 収録スタジオで、理解できない台詞やト書きに首を捻っていると、プロデューサー氏がスーッと近づき、当人にだけ台本に書かれていない秘密を耳うちする。その内容は他の共演者には明かさない。出演者の一人ひとりが、各々の人物の秘密を胸に撮影に臨んでいる。
 御一緒する場面が一番多い、桃井かおりさんとの収録がなんとも楽しい。
 通常、リハーサル日は、わざわざ局へ出かけても、台詞を読み合わせて、動きを決めるだけ。収録日の本番前にまとめても事は足りそうな気もしてくる。
 しかし今回は、桃井さんが本読みや立稽古をする度に、いろいろなアイデアを出し、シーンの雰囲気がどんどん変わっていく。収録当日も、カメリハ、ランスルーと僕達夫婦のやりとりが変わり、本番直前に思い直して、動きから台詞のテンションまでガラッと様変わりすることもある。ドラマは手造り。モノ創りの充実した時間を楽しんでいる。
 ダメ亭主に、十五歳の引き籠りの長男。決して家庭生活はうまくいっていないが、新藤家の未来に希望を継ぐために、桃井さんは食事に拘った。
 皮肉の一つも言いながら、時には喧嘩しながら、一緒に食卓につくことはなくても、二人のシーンは食事のシーン。すると不思議なもので、台本では崩壊一歩手前の家庭の中も、どこかに僅かに残っているであろう夫婦の愛情が薄ら浮かんできたりもする。
 僕は何も考えず姉さん女房に言われるまま、桃井さんに言われるまま、物語の登場人物を楽しむ。
 思えば、僕は年上の女性と付き合ったことがなかった。男は一度は、年上の女性と付き合うべきかも。

<<前号 次号>>
 

<<前号 | 次号>>
 
ページのトップへ