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週刊新潮 十二月二五日
「石原良純の楽屋の窓 」
279回
終わり良ければ……

「絶対に許せない」
「こんな人だとは、思わなかったわ」
「デリカシーが無い」
「男として、最低ね」
 四人の主演女優から罵声を浴びせられているのは、僕ではない。あくまでも、『SCANDAL』(TBS系・日曜夜)で僕が演じている・新藤哲夫・だ。
 居たたまれなくなった哲夫は、セットを取り巻くスタッフに、目で助けを求める。でも、スタッフの半数を占める女性陣は、冷たい視線で首を横に振る。残りの男性スタッフも、かかわり合いになっては損だと下を向く。
『SCANDAL』は、二十代、三十代、四十代、五十代とそれぞれの世代を代弁する四人の女性が主役のドラマ。
 ドラマは、結婚式の夜に花嫁である四人共通の友人が失踪して始まる。そして、四人が友人を捜すうちに、おのおのが抱える人生への悩み、家族の問題が明らかになってゆく。
 台本に書かれた物語が映像になった時、そこに浮び上がった世界は、僕の予想を超えていた。四人の表情、仕草のひとつひとつに、四人四様の女性の情念が滲む。画面に渦巻く女性の世界にすっかりアテられてしまった僕は、週末の夜、放映を観ながら「へ〜えっ」と驚嘆の声を上げていた。
 だいいち、僕には揺れる女心というやつが、根本的に理解できないのかもしれない。
 ドラマに登場する四カップルのなかでも、年上女房の桃井かおりさんと僕の新藤家が、一番うまくいくものとばかり思っていた。
 八月の猛暑の中、収録が始まったばかりの頃、年下のダメ弁護士夫と、年上のキャリアウーマン妻の間には愛があった。哲夫ならぬ僕も、「男は一度は、年上の女と付きあっておくべき」と確信したものだ。
 物語が展開するにつれ、新藤家の抱える悩みも明らかになった。
 二階の子供部屋から姿を現さぬ引き籠りの息子の駿介。実は、新藤夫妻は数年前にその息子を事故で亡くしていた。息子の死を受け入れられない妻を、哲夫はダメ夫を装って絶えず近くから見守っていたわけだ。なんと美しい夫婦愛だろう。
 ところが、失踪した花嫁を哲夫が匿ったのがいけなかった。それも、咄嗟のことから駿介の開かずの子供部屋に匿ってしまった。
 結果として、妻のたまきは、友人を捜す過程で息子の部屋に入ることになり、その死を認識できた。それが良かったと思ったら大間違い。子供部屋は二人の絆。そこに他人を入れたことは、絶対に許されないのだという。
 方法よりも結果が大事。荒療治には違いないが、夫婦が新しい一歩を踏み出すきっかけになったのだからいいではないか。
 しかし、女性にとっては結果よりも方法が大事なのだとか。そして一度、許されざるミスをした男とは、決して再び歩みを共にすることはないと言う。
 ということは、最終回の二十一日にウチは離婚か。
 でも、台本は放映日まで十日となった今も未だ届いていない。
 今回のドラマは、視聴者の皆さんと同様に、出演者にも先が読めなかった。撮影日寸前に渡された台本を見て、その話の展開に、「え〜っ」と驚くことがしばしばあった。
 そんな時には、プロデューサーからB4サイズにぎっしりと書き込まれたメモが手渡される。台本に書かれていない間に何があったのか。他の出演者に見せてはいけない、その人専用のサブ台本だ。
 桃井さんも僕も、メモを頼りに手探りで新藤夫妻の愛を育んできたはずなのに、哲夫はアウトですか。
 共演者、女性スタッフの冷たい視線の下でも、哲夫はハッピーエンド目指して最終回も頑張りますよ。

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